昨年12月、この欄に「軍事力で『イスラム国』(IS)のテロはなくすことはできない」という原稿を掲載したが、まさにそれを裏付ける事態が起きた。


 ベルギーの同時テロである。今年3月22日、ベルギーの首都ブリュッセルの国際空港と地下鉄で同時爆弾テロがあり、35人が死亡し、200人を超す負傷者が出た。日本人2人も巻き込まれた。シリアとイラクに拠点を置く過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。


 日本の各新聞社の社説は「民主社会への挑戦だ」(朝日)、「たび重なる非道を憎む」(毎日)、「『欧州の首都』標的にした蛮行」(読売)、「テロには理性で戦う」(東京)、「テロ撲滅へ国際連携が問われている」(日経)、「国際社会は結束を固めよ」(産経)などとの見出しを掲げて批判はするものの、説得力のある具体的な解決策を示すのは難しいようだ。


 それにしてもフランスのパリで、約130人もの命を奪い、350人以上を負傷させたあの同時多発テロが起きたのが昨年11月13日。それからわずか4カ月後に欧州連合(EU)本部のあるベルギーの首都ブリュッセルで同時テロが起きるとは驚きでもある。


 テロに対する警戒は十分だったのか。警察当局はどこまで事前に情報をつかんでいたのだろうか。ベルギー政府は「テロ対策を根本的に見直す必要がある」との見解を示したが、もう失態は許されない。


■自由と治安を両立させる対策は


 まずは社説(3月24日付)を読み比べていこう。


 朝日の社説は「わずか半年の間に大規模な都市型テロが続いたことで、欧州が警戒を強めるのは当然だ」と述べたうえで、「社会の動揺が深まれば、それこそ過激派の思惑どおりになってしまう。欧州の関係当局は効果的な対策を粛々と進めてほしい」と訴え、「求められるのは、市民の自由と治安維持のバランスを保ちつつ捜査やテロ予防を進める難しい対応だろう」と力説する。


 朝日新聞はここまで社説に書く以上、市民の自由を侵さずに治安を保つ「効果的な対策」を具体的に示してほしいと思う。


 朝日の社説はテロ捜査に対しては「昨秋のパリ同時多発テロの容疑者の多くは、ブリュッセル近郊の出身だった。現場から逃走し、先週拘束された容疑者も、同じ地区に隠れていた。過激派のネットワークが地下に広く根を張っていると考えられる。その摘発がなぜ徹底できないのか。詳細に検証する必要がある。その反省のもとに、今後の対策も進められるべきだ」と主張している。


 もっともベルギーの警察当局は朝日にここまで指摘されなくとも今回の失態を検証・分析して今後のテロ対策に生かすはずである。


 次に読売。「深刻なのは、ベルギー当局の厳戒下にあった空港という重要施設でテロを防げなかったことだ」と指摘し、「犯人は、手荷物検査場の前にある航空会社のチェックインカウンター付近で自爆したという。警備の盲点だったのではないか。テロ対策の再検討が必要だろう」と要求する。朝日よりは多少、具体的ではあるが、まだまだである。


 地下鉄の車両の爆破については「EU本部に近い駅で起きた。犯行グループがパリ同時多発テロ犯の逮捕に反発し、大量殺人で欧州を再び揺さぶる暴挙に出たとの見方もある」と解説する。


■理性と冷静さで戦うことが必要


 ブリュッセルにはイスラム系の住民が多数住むモレンベークという地区がある。そこが欧州のイスラム過激派の温床となっている。そんな都市だからこそ、より一層の警戒が必要だった。だが今回の同時テロを許してしまった。


 間違いなく、今後もイスラム国のテロは続く。それをどう防ぐのか。時間はかかるが根本の問題を解決する努力を怠ってはならない。読売の社説も「欧米や中東諸国には、『イスラム国』の台頭を許したシリア内戦を収束させ、テロ組織を掃討するさらなる努力が求められよう」としているが、その通りだと思う。


 ベルギーの同時テロでは、東京新聞だけが1本の大きな社説を掲載した。その社説は「一般論でいうと、テロの原理とは、混乱やパニック感情を引き起こし、うまく進むのなら、社会に沈積していた不満を爆発させ暴動につなげることである。政権を倒すことさえある。だから、冷静さが求められ、テロ犯罪に対する団結が不可欠となり、テロの仕掛けるわなには陥らぬ理性こそが武器となる」と理性でテロに立ち向かうことを強調する。


 なるほど、冷静さと理性を失っては本末転倒になってしまう。単純な世論ほどテロに怒り、脅える。だからこそ東京新聞が主張するように「理性で戦う」ことが求められる。


 ベルギーは「イスラム国」に対する欧米の有志国連合による軍事作戦に参加している。テロ後、「イスラム国」は「十字軍(有志国連合)の一員のベルギーに対する攻撃だ」との犯行声明をインターネット上に出した。


 軍事力で過激派組織を押さえ込むことは一時的にはできるが、結局は憎しみが憎しみを呼び、それがやがて大きな戦争へと発展してしまう。この憎しみの連鎖を断ち切るにはどうしたらいいのだろうか。


 テロは長い間の不平等や差別、貧困などの社会のひずみから生まれる。こうした病根をなくすにはかなりの時間と努力が必要だ。それを覚悟で国際社会が一致団結し、テロに立ち向かうしか手立てはない。(沙鷗一歩)