ここ数年、花粉症シーズンに入ると、なんだか目のまわりがムズムズ。まだ、涙が出たり、鼻水が止まらないほど、やっかいな状態になってはないけれど、早晩、花粉症を発症するのだろう。いや本当につらそうだ。
肌感覚では、花粉症や食物アレルギーの人が昔より増えた気がしていたのだが、アレルギーの最新の知見を調べた『アレルギー医療革命』にしっかりデータが出ていた。
〈1950年代にはアレルギーの患者は非常に少なかった。その後、先進国では都市を追うごとに激増し、2000年の時点では、なんと3人に1人が何らかのアレルギーを持つ〉という。
冒頭では、アレルギーの患者がほとんどいない、米国の「アーミッシュ」の秘密に迫る。アーミッシュとは、欧州から米国やカナダに移り住んだプロテスタントの一会派。電機や車など文明の利器を使わず、今も移民当時の200年前と同様の暮らしを続けている。
〈何年にもわたる長い調査の結果、アレルギーになりにくい環境因子が明らかになった。それは2つ。ひとつは牛や馬を飼い、家畜と濃密な接触があるということ。そしてもうひとつは加熱殺菌しない牛の生乳を飲んでいることだ〉。家畜と濃密な接触があり、生乳を飲んでいる人々は、「制御性T細胞」(通称・Tレグ)と呼ばれる免疫細胞が35%も増えていたという。
詳細は本書を読んでほしいが、Tレグについて簡単に説明しよう。アレルギーは体に害のない異物(例えば花粉)にもかかわらず、免疫細胞が攻撃してしまった結果起こるのだが、その際、Tレグは誤った攻撃の指令を抑える役割を果たす。
アーミッシュの人々は、幼少期から家畜に触れたり、生乳を飲んだりすることで体内に細菌を取り入れる。幼少期に細菌を取り入れると、Tレグが増える。Tレグが多いアーミッシュの人々はアレルギーになりにくいのだ。
■花粉症を治すご飯
近年は、このTレグの働きに着目したアレルギーの治療法や食品も出てきている。身近な例だと、スギ花粉症の舌下免疫療法がそれだ。毎日、花粉成分を舌の裏側に垂らすだけ。岡本美孝・千葉大学教授の実験によれば、根治が2割、何らかの改善があった人まで含めると7割近くに治療効果があったという。
実用化はまだだが、国立農業生物資源研究所では、花粉成分を含む利用“米”を開発中。ご飯を食べるだけで花粉症を治す(本書に登場している竹林さんは、何年ぶりかの花見に行けるほど劇的な改善だったようだ)。英国の製薬会社もカナダの製薬ベンチャーと組んで治療薬の開発を進めている。
近い将来、アレルギーが根治する時代もやってきそうだ。
ちなみに、今からアーミッシュのように田舎暮らしをすれば、大人でもアレルギーは治るのか? 本書に登場する、オーフス大学(デンマーク)のグレテ・エルホルム博士の研究によれば、〈田舎への移住によって、アレルギー症状の大きな改善が見られるケースが大半〉だとか。もっとも、〈10年間程度は、田舎暮らしを続ける必要〉があり、〈濃密に家畜と接触する環境でないと効果は出ません〉という。免疫システムは幼少時代に作られるため、大人になると時間がかかるのだ。
大人は、新しい治療法が開発されるのを待つほうが早いかも。(鎌)
<書籍データ>
NHKスペシャル取材班著(文芸春秋 1300円+税)