「病院ランキング」「○○の名医」等々、しばしば雑誌やムックで優れた病院や、医師を取り上げる企画が組まれる。患者には「病気は、病院や医師が治すもの」という意識が強いからなのだろう。
医療を提供する側もしかり。身内に医療関係者がいたのだが、「先生(医師)の言うことは絶対。セカンドオピニオンなんてとんでもない」という感覚だった(少し前の話だけど)。
「インフォームドコンセント」(医師からの治療の内容に関する説明と患者の同意)という概念が医療関係者の間で広く知られるようになった今も、ときどき高圧的で、「自分の言う通りにしていれば治るんだ」という雰囲気の医師に出くわすことがある(年配の医師が多い)。
そこに「最強の医療を受けるには、“患者力”も不可欠」とする1冊が登場した。『一流患者と三流患者』がそれだ。著者は、〈医者にすべてをまかせるのではなく、自分が主体的に関わるだけで、全然違ったアウトカム(結果)が得られます。そうして、はじめて満足度の高い医療を受けることができる〉と協調する。
医療技術は日進月歩で進化しているが、日本の医師免許は更新制ではない。ここ10年で抗がん剤やリウマチ治療をはじめ、医療が大きく進化したことを考えると、勉強していない医師に当たったときのリスクは大きい。
同じ病院内でも縄張り意識やヒエラルキーがあって、ベストな治療が行われない可能性もある。実際、〈日本では主治医性のもと、最初にかかった診療科の医者の権限が非常に強くなる傾向〉があるという。
著者は、〈医療というのは、「絶対にこれがいい」「絶対にこれはダメ」というのは、明らかにわかりますが、大半の治療はその中間点〉という。だからこそ、〈医者に疑問をぶつけたり、他の治療法の選択肢を尋ねたり自分は何を優先して治療を行うか等々〉を考える。
■最良の医療を引き出す極意
では、〈医者任せにせず、自分自身から医者にコミットし、最適かつ最良の医療を医者や病院から引き出せる〉〈医者の提案を受けとめたうえで、自分なりの回答を導き出〉す、「一流患者」はどう、行動するか?
例えば、病気の一般名と医学的な正式名の両方を医師に確認する。今やインターネット上に、医療情報が溢れかえっているが、正式な病名を聞いておくことで、情報の質や量に各段の差が出てくるのだ。薬もしかり。商品名と一般名の双方を知っておくことで、情報収集に差がつく。
複数の選択肢がある場合、きちんと患者自身の置かれた立場や希望を伝えることで、選択する治療も変わってくる。治療や薬のなぜ? を主体的に考えていくことで、納得のいく治療が受けられる可能性が高まるのだ。日ごろから多少なりとも医療の世界と接している人なら、“突っ込み”も鋭いだろうし、新しい情報を集める勘所みたいなものを知っている(ただ、ド素人の自分の親兄弟にできるか、と言われると少々現実的じゃない、というか無理な気がするが……)。
基本的な考え方だけでなく、「診察室の会話を録音する」「標準療法か否かを確認する」「公的保険が適用されるかを確認する」「臨床試験を行っている大学病院のような大きな病院をセカンドオピニオンにする」「複数の選択肢を出されたら、その根拠を確認する」といった、具体的かつ効果的な手法も満載。
医療の世界を取材する身でありながら、恥ずかしい話、自身は医者の言いなりになる「二流患者」。取材などを通じて、相当“頭でっかち”になっているだけに、質問しすぎて「嫌な患者」と思われないか心配だが、まずは実践。〈風邪などの何気ない病気で医者にかかった際こそ、医者とのコミュニケーションを大事にして、質問する練習をしてみてください〉という著者の教えに従って、治療の満足度がどう変わるか試してみたい。(鎌)
<書籍データ>
上野直人著(朝日新書760円+税)