ついにアベノミクス反動不況がやってくるのか——。すでにその兆候は消費に現れ始めている。アベノミクスによる株高、円安によるインバウンド(訪日外国人)特需という神風が吹いて好調に推移していた百貨店売上高も2016年3〜4月の売上高は前年同月比で減少に転じているし、昨年4月以降ほぼ一貫して前年同月比を上回ってきたスーパーの売上高も軟調になってきた。黒田東彦日銀総裁の金融緩和政策、いわゆる“黒田バズーカ”で上昇基調の続いた株価も金融政策の手詰まりから乱高下しており暴落の予兆だと推測する向きも増えてきた。消費税増税も控えている。消費の現場から、今後の消費を占ってみた。


「生活防衛意識が高まってきている」(井出陽一郎日本百貨店協会専務理事)。安部晋三政権の経済政策であるアベノミクスの展開以来続いてきた株高、円安という経済のプラス要因が逆回りし始めた今、消費にも逆風が吹き始め財布のひもが固くなってきた。


 日本百貨店協会が発表している3月の全国の百貨店売上高は前年同月比で▲2.9%。大手百貨店5社が自主的に発表している月次の売上高でも4月はそろって減収となった。5社各社の減収幅は▲0.8%から▲6.3%だった。


 百貨店の売上高は安部晋三政権が誕生した2012年から伸びはじめ、昨年も4月以降月次ベースでは一貫して伸びた。しかし、昨年11月からは変調、一進一退の展開が続いており、ついに2ヵ月連続のマイナスとなった。この低迷状態は一過性ではなさそうだ。百貨店においては、このところの売上高の伸びを牽引してきたインバウンド(訪日外国人旅行者)の消費の潮目が変わっている。


 4月の三越伊勢丹の売上高は前年同月比▲4.4%となった。主力商品の衣料品が落ち込んだこともあるが、インバウンド消費が、化粧品など消耗品が対象となった2014年10月以降、約1年半ぶりにマイナスとなったことも響いた。


 ある大手百貨店の幹部は昨年あたりまでは「高級ブランドや時計・宝飾品が売れていたが、ここに来ては正直いって低調だ」と打ち明ける。「代わって単価の低い化粧品などに人気が集まっている」という。これまで“爆買い”といわれるように中国の業者筋や、中国共産党の幹部らが高級ブランドなどを大量に購入した姿は鳴りを潜めている。


 為替の円高の進行で割安感が後退したことに加え、中国の関税検査の強化で高額品を大量に持ち込めなくなったことが影響しているとみられている。


 それにしても、インバウンドが大勢訪れる東京・銀座では彼らを当て込んで、「東急プラザ銀座」に韓国ロッテが免税店を開業したり、三越の銀座店が空港型免税店を開いたりしている。来年には建て替え工事を進めていた松坂屋銀座店が、バスの乗降場を設置するなど、いわば“インバウンド仕様”ともいえる体裁で開業、免税店オーバーストア状態が現出する。


 これまでインバウンド特需で潤い、我が世の春を謳歌してきた銀座には、ついに冬の時代が到来するのかが焦点だが、消費不況の足音は百貨店ばかりではない。デフレ業態でも変調の兆しがある。


 このところ「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの株価が冴えない。直近3か月の株価動向で、3月に3万7000円あたりにあった同社の株価だが、現在8000〜9000円程度、率にして2割程度下落し2万8000〜2万9000円あたりで安定している。


 ファーストリテイリングの株価は日経平均株価全体の軟調も背景にあるが、消費の先行きを不安視した投資家の売りを誘った格好だ。というのも同社の2015年9月〜2016年2月までの上期決算の当期利益は前年同期比で55%もの大幅減益となったうえ、好調が伝えられてきた中国も減益でネガティブサプライズとなったからだ。


 ユニクロの月次ベースの国内売上高も低迷している。4月は既存店売上高が前年同月比で▲1.2%となった。客数の落ち込みは▲6.6%と深刻。客数の落ち込みを値上げによる単価の上昇ではカバーできなくなっている格好だ。


 ユニクロではアベノミクスによる円安の進行を背景に、2度にわたり値上げを実施、計15%程度、商品価格が上がった。この値上がりによる割高感を敏感に読み取った国内消費者の客離れが続いているのだ。


 ユニクロではこの事態に急遽、売れ筋商品の値下げを実施した。値下げで離れた顧客の引き戻し策を図っている(値下げできるのなら最初から値上げしなければいいのに……)が、その効果はまだ出ていないようだ。これに対し、ユニクロよりも低単価の商品を多く扱うしまむらは好調。前期(16年2月期)決算では客数や客単価が伸び営業利益は3期ぶりに営業増益となった。


 つまり節約志向が急速に台頭し、ひたひたとかつてのような消費不況が忍び寄っている可能性がある。百貨店やユニクロだけではない。スーパーも3月、4月は軟調な展開となった模様だ。まだ実施されるか否かの回答は出ていないが、これに消費税率が8%から10%に引き上げられたら、消費心理の冷え込みは決定的になるという見方もある。再びデフレスパイラルに入っていくのか。消費は正念場を迎えている。(原)