小野薬品の相良暁代表取締役社長が抗悪性腫瘍剤「オプジーボ点滴静注」の16年度の売上高が1260億円(前期比495.7%増)になると発表した5月11日、東京ビッグサイトで開催された「ライフサイエンス ワールド2016」では、そのオプジーボを「このまま使わせていいのか?」と問題提起した人物がいた。


 経済産業省ヘルスケア産業課長の江崎禎英氏だ。江崎氏は、①がん等の疾患においては、薬剤の有効率が低いにもかかわらず「標準治療」として広く用いられることにより、治療ニーズを満たせないうえ、医療財政を圧迫する原因となっている、②有効率が低い医薬品は、適切に淘汰されていくメカニズムが必要——であると指摘し、現状は大きな金額が無駄になっているとし、経済産業省としては、“お金の使われ方”が気になると述べた。


 ちなみに、4月4日の財政制度等審議会財政制度分科会では、日本赤十字社医療センター化学療法科の國頭英夫部長から、「オプジーボの対象患者は、少なく見積もっても5万人であり、1年間使うとすると……3500万円×5万人=1兆7500億円になる」と報告されていた。


 江崎氏は、講演後に外国人参加者から「なぜ、経済産業省は他省庁の“領域”に口を出せるのか?」と質問された。その質問に対し、江崎氏は次のように答えた。


「素人だからです。これまでの医療業界は、コスト意識がなく、新薬が出ればどんなに高くてもそれを処方していました。“顧客”も本来であれば“患者”であるのに、“医師”となっていて、その“医師”の満足度を高めることに注力されてきました。このことは、患者の満足にもつながっていた部分もありますので、決して悪いことではありませんが、財政が厳しくなった今日では、このまま見逃すわけにはいきません。経済産業省は、これを“普通のビジネスモデル”に変えていきます。普通のビジネスモデルとは“いいものをより安く効率的に提供する”ということです」


 江崎氏は最後に「これを実現することが経済産業省の存在意義です」と言い切った。


 顧客を「患者」に変えたとき、薬の使われ方はどう変わるか。MRも“その時”に備えて考えておいたほうがよさそうだ。 


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川越満(かわごえみつる) 1970年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。