第2次安倍政権発足時の全閣僚19人のうち実に16人、現在でも10閣僚が所属する日本会議という“保守系民間団体”がある。先月末、この組織の成り立ちを掘り下げた『日本会議の研究』(菅野完)という新書が発売され、話題を呼んでいる。発売から約1週間で初版と2刷りは品切れとなり、版元の扶桑社は目下、3刷りを増刷中。一方で日本会議の椛島有三事務総長は同社に、この本の出版停止を求める申し入れを行った。


 今週の週刊ポストは巻頭でこの「異例のベストセラー」を紹介し、『「日本会議」とは何なのか?』という特集を組んでいる。神社本庁をはじめとする宗教右派の巨大組織。そんな漠然としたイメージの日本会議だが、著者の菅野氏は、種々雑多な団体の寄せ集め的なこの組織で、実務の一切を取り仕切る「日本青年協議会」というグループに着目する。その幹部らは、70年安保当時、宗教組織「生長の家」の右派学生組織にいた人々で、彼らの半世紀近い地道な“草の根の活動”こそ、今や首相をして、改憲の具体的可能性まで語らせる今日の政治状況を生み出した中核にいる人々だという。


 週刊現代も書評欄でこの新書を取り上げたが、ほかにも週刊プレイボーイが『これが憲法改正を陰で支配する日本会議の正体だ!!』という4ページの特集を掲載した。それによれば、菅野氏は07年頃から急増した、いわゆる“ネトウヨ的な言説”を幅広く分析した結果、そのバリエーションは意外にも乏しく、慰安婦問題や夫婦別姓など、いくつかのテーマの“金太郎飴的な主張”に限定され、しかもそのほとんどは右派月刊誌『正論』『WiLL』あるいは『諸君!』(すでに廃刊)に執筆する日本会議文化人の主張に遡ることができるという。


 自身のスタンスも「保守・右翼」だという菅野氏はしかし、これらの言説を思想と見なすにはあまりに「レベルが低く、読むに堪えないものばかりだ」と痛感し、一般には「右傾化」と呼ばれがちな昨今の潮流をつくり出した背後にいる、日本会議の人々の研究を思い立ったという。


 筆者もこの新書には目を通したが、80年代から90年代にかけ、『正論』『諸君!』など保守論壇の著しい質的な劣化を感じていた記憶もあり、その変化を担ってきた推進力、“対左翼の怨念”を青春期に宿した団塊世代の右派活動家たちの存在を浮き彫りにした菅野氏の分析を、興味深く感じた。


 日本会議文化人と浅からぬ縁のある週刊文春や新潮は、さすがにこの新書を取り上げてはいないが、新潮あたりは遠からず、日本会議サイドによる菅野氏への批判を載せるような気がする。宗教団体が数多く関わる国粋主義団体、という不気味なイメージから、メディアではほとんど取り上げられずにきたこの巨大組織。ここに来て、朝日新聞が連載記事を載せたほか、今月と来月にも1冊ずつ、関連本の刊行が予定されており、メディア界を縛ってきた一種の呪縛がようやく取り払われ、謎めいたその姿に光が当たろうとしている。政権の奥深く入り込む影響力を考えれば、いささか遅すぎた感もあるが、現政権に漂う復古主義的な雰囲気の内実を理解するうえで、歓迎すべき流れだと思う。


 NHKの人気番組『ファミリーヒストリー』で、ジャーナリスト鳥越俊太郎さんが取り上げられた際、戦国武将にまで遡り紹介された家系図に疑義がある、とする週刊新潮の記事、あるいは東京五輪招致運動で“コンサルタント会社”に支払われた約2億2000万円をめぐる文春の関連記事『「呪われた東京五輪」アフリカの黒幕と河野洋平の蜜月』も今週は興味深い。一連の騒動の締めくくりになるであろうベッキー問題の続報や、舛添都知事を追い詰める政治資金問題の追及など、文春らしいスキャンダル報道も続いている。

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三山喬(みやまたかし)
 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。