メドピアが5月18日に発表した「⼈⼯知能が診療に参画する時代は来るか?」のアンケート調査結果によると、最も多かった回答は「10年超20年以内に来る」だったそうだ。


 しかし、アンケートに回答した3701⼈の医師が、5月25〜26日に都内で開催された「IBM Watson Summit 2016」に参加した直後に回答したら、今回のアンケートではわずか13%だった「5年以内に来る」という割合が、9割以上を占めることになっていただろう。


 25日には、日本IBMの金子達哉氏が桶狭間病院藤田こころケアセンター(愛知県)と取り組んでいる“医療リアルワールドデータ分析”の先進事例を発表した。患者が入院した最初のカンファレンス時に、過去の類似データ(ビッグデータ)を参考にアウトカムを予想することができるため、各職種が当該患者の退院に向けた難易度を定量化し、どこがボトルネックになるかなどを把握することができているそうだ。まさに「電子カルテは宝の山」だ。3種類以上の薬を服用している患者の再入院率が高いことも確認されているという。CNS領域の薬剤を持つ製薬企業にとって、ビッグデータや人工知能の流れは、強い向かい風になるかもしれない。


 26日には、弊社(木村情報技術株式会社)の木村代表が「IBM Watson最新動向と事例」というセッションでプレゼンさせていただいた。開発事例として、(1)製薬企業のコールセンターの1次対応、(2)製薬企業のオウンドメディアなどによる24時間問い合わせサービス、(3)薬局薬剤師が“辞書がわり”に使う医薬品情報サポートシステム、(4)医薬品安全性情報等の難易度の高い報告書作成サポートシステム——の4種類について、デモを交えて紹介し、さらに今後はMRやMSLのアシスタント機能やトレーニングシステム、CT・MRI・病理画像などの診断支援システムなどのアイデアも提示した。


 デモを見た薬剤師は「病院DI室の人材の多くがいらなくなってしまうかもしれない」とつぶやき、製薬企業の学術担当は「MRからの質問対応のほとんどはWatsonで事足りてしまう」と語り、人間の仕事が奪われることに危機感を抱いていた。


 人間は、人間にしかできないことにフォーカスして、その他は“相棒”のWatsonに任せればいい。そうすることで、医療の質の向上と効率化を目指していくことが望まれる。


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川越満(かわごえみつる) 1970年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。