私を講演会の講師に呼ぶと「処方が増える」という評判が広がったおかげで、2年前から医師や薬剤師向けの講演会に出演することが増えた。


 講演会で私が必ず話すのは「これからの医療従事者は“3つのアウトカム”を上げることを意識し、自分のエリアを“日本一”にしてください」ということだ。


 1つ目のアウトカムは馴染みの深い「臨床的アウトカム」だ。例えば、▽入院患者の転倒・転落発生率▽褥瘡発生率▽糖尿病患者の血糖コントロール▽急性心筋梗塞患者における退院時投与割合(アスピリン・βブロッカー・スタチン・ACE阻害剤もしくはARB)——などの臨床指標を設定し、維持・改善率を分析することだ。


 2つ目のアウトカムは「患者立脚型アウトカム」だ。患者の主観的な評価指標を重要視したもので、健康状況や治療に対する満足度などが含まれる。単に満足度をアンケート調査などで分析するのではなく、連携先での治療継続率や、処方日数に対する受診間隔の整合性なども指標としてほしいところだ。最近話題の「残薬」は、言い換えれば満足度の低さとしてあらわれている現象だと言っても過言ではないだろう。


 最後の3つ目のアウトカムが「経済的アウトカム」だ。いわゆる「費用対効果」である。ずいぶん昔の話になるが、『医薬経済』の2003年1月号に、以下のようなことを書かせていただいた。


「処方せん1枚当たりの金額がもの凄い勢いで上昇している。日本薬剤師会によると、2002年8月分の1枚当たり金額は6038円にも達している。この10年間に消費者物価指数は10%程度しか上昇していないのに、処方せん1枚当たりの金額は2.2倍に急騰している。まさに“処方せんバブル”である」


 ご存じのとおり、今の“相場”は1枚当たり約9000円だ。この20年間で処方せん単価は約3倍になっている。


 たかせクリニックの高瀬義昌理事長は、6月4日から私の地元である横浜で開催された日本在宅医療学会学術大会のシンポジウムに登壇し、「地域包括ケアでは、ハイパフォーマンスヘルスケアが求められる」と述べた。高瀬理事長は、認知症患者を中心としたポリファーマシーの問題に切り込み、年間数十万円単位で薬剤費を削減した患者を数多く抱えている。


 高瀬理事長のように、3つのアウトカムを向上させる医療人が、地域包括ケアをリードしていくことになる。製薬企業やMRも3つのアウトカムを意識しなければならない。 


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川越満(かわごえみつる) 1970年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。