「クリニックの昼休みの時間と診療時間終了直後がMRにとっての“ゴールデン・タイム”」


 各製薬企業がホームページで就活生向けに紹介している「MRの1日」ページには、だいたいこのようなことが書かれている。


 ゴールデン・タイムは、ターゲット医師が“ひとりぼっち”になる時間帯であり、MRと面会する心の余裕がある時間帯でもある。


 しかし、昨今の環境変化により、このゴールデン・タイムが縮小しているようだ。知人の開業医は、2016年度診療報酬改定の全容が明らかになった2月中旬から、MRから要請があっても面会しないことを決めた。ゴールデン・タイムにMRと面会するよりも、在宅医療に出かけて報酬を増やすほうを選んだのだ。地域包括ケアの中でリーダー的な役割を果たしていくには、今から在宅医療に取り組み、年間数十件の看取り実績を重ねておく必要もあるだろう。今回の改定は、MRとの面会をやめるいいきっかけになったのかもしれない。


 今後の方向性を考える際、「増えるもの」と「減るもの」を分析すると、その対応策が見えやすくなる。例えば、「増えるもの」には次のようなものがあるだろう。


<増えるもの>

●在宅医療(患者の家)

●チーム医療(医師の負担軽減)

●調剤薬局の対人業務

●アウトカム目標(臨床指標)

●地域包括ケアを絡めた多職種連携


 もっとたくさんあるが、ここに挙げたものが、どのようなものを「減らす」のかというと、「MRが先生に面談できる確率」である。


 先ほど触れたように、MRが先生に面談できるのは、ターゲット医師が“ひとりぼっち”になる時間帯である。しかし、今後増える在宅医療やチーム医療、多職種連携は、ターゲット医師ほど、“ひとりぼっち”になれない取り組みである。物理的にひとりでいたとしても、スマホにダウンロードされている多職種連携ツールで、患者さんの情報をやりとりしているかもしれない。


 残念ながら「ゴールデン・タイム」はあと数年で“死語”になるだろう。そうなると、「呼ばれていないのに訪問する」ビジネスモデルは崩壊する。


 それでは、呼ばれるにはどうしたらいいのか。すべてのMRがこの問いに答えられなければならない。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。