今週はポストと文春が、消費増税の延期とW選挙断念をめぐって勃発した政権内部の確執を、偶然にも似たような切り口で描いている。「トリプルA+S」、つまり安倍+麻生+甘利+菅、という現政権の屋台骨を担ってきた重鎮4氏から、口利き疑惑で脱落した甘利氏を除外した3氏の結束に、微妙な軋みが生まれている、というのである。
現代も『麻生、谷垣、朝日新聞は間違っている 「増税延期」安倍が正しい』という特集記事を載せているが、こちらはあくまでも、現下の状況で消費税増税を実施すれば、日本経済はとどめを刺される、という「増税先送り肯定論」。その内幕を描いた政局記事ではない。タイトルに登場する麻生氏や谷垣氏については、あくまでも「増税推進派」としてさらりと言及されるだけだ。
ポストの記事はもう少し詳しく、タイトルも仰々しい。『屈辱の「参院シングル」を呑まされたトップ4会談の遺恨が内閣改造で炸裂する 「オレの悲願を潰した奴は去れ!」「麻生と谷垣は更迭、菅も放逐」 安倍首相・激情の夏』というものだ。
ここでは「ダブルA+S」に谷垣幹事長を入れた顔ぶれが「トップ4」とされている。記事によれば、安倍首相が今回、W選を見送ったのは、菅官房長官が強硬に反対したためで、かたや麻生氏と谷垣氏は「増税を延期するのなら、解散して国民の信を問うべきだ」と“筋論”で首相に迫ったという。
つまり、安倍首相を挟んで、菅vs麻生・谷垣の対立が生まれた、という話で、首相は参院選終了後、“両成敗”ということで、大幅な内閣改造を行って麻生と谷垣の両氏を遠ざけ、力を持ちすぎた菅官房長官についても、その座から降ろす可能性が出てきたという。
文春のほうはさらに大掛かりに、『変質する政権トライアングル』という新連載でこの同じテーマを取り上げている。《長期政権は必ずや劣化する》という書き出しから始まるその第1話では、政府首脳トリオ(安倍、麻生、菅)の間で《今までにはなかった大きな軋みが露呈した》と現状が解説されている。
それによれば、麻生氏は「増税を先送りしたうえでW選挙を行う」という首相が目指していたシナリオそのものに反対したわけではなく、その具体的なやり方として、都合のいいデータを並べ立て、「リーマンショック級の危機」とサミットで訴えた姑息さに反発し、「解散して信を問わなければ、筋が通らない」と訴えたのだという。
この第1話では、増税延期をめぐる攻防に絞り込んで5ページもの紙幅が割かれ、ポスト記事をしのぐ詳細なディテールが書き込まれている。執筆者の山口敬二氏は、TBSを退社したばかりの元政治部記者であり、NHKの岩田明子記者と並んで、安倍首相と親密な関係を築いていたことで知られる人物だ。
しかし、自分自身が新聞記者時代、社会部系だったせいか、私は描き出す対象者とズブズブの関係になる政治部的な手法には、どうしても馴染めない。《志を失った人物は宰相の地位にあらずという麻生の哲学》《煎じ詰めれば「ダブル派」の声は「安倍を男にする願い」》などという、随所に織り込まれた“思い入れ過剰な表現”にも、抵抗を感じる。
権力の内幕を描き出すために、権力者の懐に飛び込むのは、やむを得ない手法かもしれないが、いざそれを表現する段階で“描かれる側”と一体化してしまったら、結局のところそれはもう、一種の“提灯記事”になってしまう。初回の記事だけで結論を下すのはもちろん早計であり、今後の展開を注意深く見守っていきたい。
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三山喬(みやまたかし) 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。