梅雨半ば。多くの会社ではクールビズでジャケット不要となり、ぽっこりお腹が否応なく目立つ季節になってきた。各医療保険者が、40〜74歳の加入者に対して生活習慣病健診を行うという「特定健康診査(特定健診)・特定保健指導事業」制度が導入されてから8年。「メタボ」や「メタボ健診」という言葉はすっかり世間に定着した。

 

 特定健診で「男性≧85cm、女性≧90cm」を第1ステップとするリスク判定のために腹囲を測定されるのは、誰にとってもあまり気持ちのいいものではない。ところが、この8年間、「メタボ」の汚名に甘んじてきた人たちに反撃の機会がやってきた。今後は、腹囲が基準以下でも、血圧、血糖、脂質、喫煙など他のリスクがあれば、特定保健指導の対象とする厚労省の方針がみえてきたからだ。男性で「腹囲(臍レベルのウエスト周囲長)<85cmかつBMI<25」で「リスク0」の人(厳密な対照群)のハザード比を1.00とした場合、「リスク1つ」では1.78、「リスク2つ以上」では1.91になるからだという。これを、「痩せメタボ」、「隠れメタボ」などのキーワードで報じるメディアもあった。痩せ形だからといって安心はできない、ということになる。

 

 同事業の法的基盤「高齢者の医療の確保に関する法律」では、5年を1期として実施計画を定めることになっており、現在は2018(平成30)年からの第3期に向けた見直しが佳境に入っている。2017(平成29)年を保険者のシステム改修期間にあてるため、次年度の予算に向けた概算要求の段階にあたる2016(平成28)年半ばには、主な健診項目に関する修正点を定める必要があるからだ。


「特定健診・特定保健指導」に関するエビデンスの収集・分析などの技術的事項は「特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会(健康局)」が、制度的事項は「保険者による健診・保険指導等による検討会(保険局)」が担当し、検討開始や中間取りまとめなどの節目で合同検討会を行う。

 

「特定健診・特定保健指導事業」の基本的な考え方は、内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)に着目した健診と保健指導を医療保険者に行わせることにより、生活習慣病の予防および医療費の適正化を目指すことだ。腹囲の基準は、男性85cm前後、女性90〜95cmで保有リスクの平均が1を超える(何らかのリスク因子を有する)ことから設定された。


 第3期に向け、健康局が検討の視点として掲げているのは、検査の各健診項目が、①真のエンドポイントとしての虚血性心疾患・脳血管疾患・糖尿病等の危険因子や、メタボリックシンドロームの悪化に伴う生活習慣病の進展を早期に発見する指標であるか、②検査の精度・有効性はどうか、③事後措置として効果的な介入が可能か等である。


 そこで、検査指標(代謝系・血中脂質・肝機能・尿腎機能・血液一般・誘導心電図・眼底などの各検査)の妥当性が検討されるとともに、新たな質問票案も作成されている。

 

 特定健診実施率(事業のアウトプット評価)は2008(平成20)年度の38.9%から2013(平成25)年度には47.6%に、特定保健指導実施率は同期間に7.7%から17.7%に上がってきてはいる。しかし、2017(平成29)年度の実施目標である75%と45%を達成するのはなかなか厳しそうだ。

 

 厚生省公衆衛生審議会で、「食生活、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、発症・進行に関与する疾患群」として「生活習慣病」の定義が提案されたのが1996(平成8)年。2008(平成20)年の「特定健診・特定保健指導」導入時はまだ、飽食時代への問題意識が強かった。しかし、人口の超高齢化が進む現在、75歳以降も過剰を抑える方針を続けていくと、「フレイル」や「ロコモ」のリスクを高めてしまうかもしれない。また、生活習慣病のベースは40歳という特定健診の入口に着く前に既にできあがっているとの指摘もある。


 10年間行われてきた「メタボ健診」を核に、30歳代以前と75歳以降の問題点も踏まえて、何を行うことが個人の健康寿命を伸ばし、医療費を抑制するうえで最も効果的か、5年単位のPDCAサイクルを回し続けていくしかない。(玲)