インターフェロンや、添加剤のマルトースやトレハロースなどで、医薬品業界とも関係が深い林原。独自の製品や、地元中心の縁故採用など、一風変わったバイオ企業として知られてきたこの会社が倒産して5年が過ぎた(現在は、中堅商社の長瀬産業の100%子会社)。


 その間、元社長の林原健氏の著書『林原家』、元専務の林原靖氏の著書『破綻』が刊行され、創業家の視点から、倒産の内幕や林原家の内情が描かれ大いに話題となった。


 今年になって、靖氏の著書第2弾『背信』が刊行。『破綻』の続編的な位置付けとしているだけに、前著発行後にわかった新事実や、以降の展開が細かく記されている。


 著者が〈潰す必要のない会社が潰されてしまった〉と言いたい気持ちはわからないでもない。〈九三パーセントという異常なほど高い弁済率(後述するが債務の全額返済は十分可能だった)と、この十年、確実に利益を積み上げて、三百五十億円以上の銀行借入金をせっせと返済していた〉からだ。


 第2章で登場する靖氏の友人たちで構成される「老年探偵団」がさまざまな事実を明らかにしていき、銀行や弁護士らの“陰謀”を推察するあたりは、池井戸潤氏の半沢直樹シリーズを彷彿させる。読み物として単純に面白い。


〈林原の場合、不可思議な金融処置がたくさんあった。/スポンサーに決まった長瀬産業は林原の買収費用として七百億円の金額を投じた。競り合っていた他の企業グループは八百五十億円の一番札を入れたが、なぜか落とされてしまった〉〈「自社株だから担保にはできない」、「避けるべき行為と指導されている」などという指摘や注意を、中国銀行からただの一度も受けたことがない〉など、並べていけば、「なんで?」となるような驚くべき事実が続々登場する。


■知財の評価はナシ


 もっとも、300億円の粉飾をやっていたことや、にもかかわらず企業のメセナ活動や、本業外への活動などを行っていた点は「危機意識の欠如」を感じさせる部分だ。


〈われわれは取引銀行には「紙の上の数字」だけを見るのではなく実態を理解してくれ、とことあるごとにおねがいしてきた〉としても、裏切られた銀行側としては、企業や経営者を信じるのは難しい。


〈林原がもつ技術力、特許権、ブランド価値や信用力などの「知財評価」がいっさいなされていない〉とはいうものの、そもそも金融機関、とくに銀行はそんなもの。能力もなければする気もない。即売却した時の換金価値にしか興味がないのだ。


 著者も90年代後半の金融危機、リーマンショックなどで、逃げ足が速い銀行の話(とくに経営状態の悪い都市銀行や信託銀行)も見聞きしてきただろう。独創的な研究に巨額の投資をして、長期間で回収するというベンチャー型のビジネスモデルで生きていくのであれば、もっと銀行借り入れに頼らなくて済むような資金の調達構造にしておくべきだった(実際、研究開発型の製薬会社にはそういう思考の企業が多いと思う)。〈事業会社は取引銀行のレベルを超えて発展する事ができない〉は、多くの企業にとってある意味真実だが、林原ほどの企業ならもっと選択肢はあったはずだ。


 これはこれで面白かったのだが、仮説も多いため消化不良感が残った。銀行側からの詳しい反論や公平な立場からジャーナリストの視点で書いた1冊、あるいは徹底取材した経済小説を“続編”として読みたくなった。〈鎌〉 


〈書籍データ〉

『背信 ——銀行・弁護士の黒い画策』

林原靖著(ワック出版社1500円+税)