『週刊誌のツボ』

★興醒めの情勢調査 

 何と言うか、録画したサッカー国際試合の観戦を楽しみに帰宅したら、間違ってネットで試合結果を先に見てしまった、というような情けない気分である。しかもそれが、「ドキドキ」も「ハラハラ」もないワンサイドゲームだとしたら、いったい誰が改めて録画を再生するだろう。

 もちろん世論調査は往々にして外れるし、半月もあれば人の心も幾ばくかは変わる。それにしても、参院選が公示された直後に発表された、報道各社による選挙戦序盤の情勢調査結果は、あんまりであった。

 改選121議席のうち自民、公明など改憲4党で、70議席台後半。非改選議席も合わせると、改憲発議に必要な3分の2に届きそうな勢い、という「与党圧勝の見通し」がずらりと出揃ったのである。これこそ、ドキドキもハラハラもない興醒めである。

 こうなると、週刊誌も面白い誌面づくりは、なかなかしんどくなる。今週号はとくに、せっかく読者の関心を引っ張ろうとした矢先に、いきなり冷や水をぶっかけられたような形になってしまった。

 週末に4誌をまとめ読みする当方も悪いのだが、見出し的にもっとも哀れだったのは週刊現代で『安倍痛恨! 7・10参院選 舛添のせいで自民党「議席減」の衝撃データ』という記事だ。内容は触れるまでもないだろう。小見出しを拾うだけでも『潮目が変わった』『女性票を大きく失う』『「07年の悪夢」を思い出す』といった具合である。

 週刊文春も短い記事なのだが、なかなかに“イタい”見出しがある。『参院選は自民も民心も苦戦!? カギを握るのは農村部と共産党』。本文には、永田町関係者のセリフとして「自民党、民進党の議員が、口をそろえて『我が党には風が吹いていない。不気味だ。負けるのでは』と言っている。不思議な選挙です」というコメントがある。

 もちろん、これから2週間余りで情勢はどんどん動くかもしれないし、いざ蓋を開けてみれば、これらの記事こそが「先見性のある深い読みだった」と称えられる可能性も、ないわけではない。イギリスがEUを抜け、分断国家になってしまうかもしれない、などという驚天動地の出来事さえ起こる時代なのだから、何があってもおかしくはないのだが、はてさて、どうなるか。

 週刊ポスト、2ページだけの記事だが『靖国神社の存在意義にも関わる? 徳川宮司「明治維新という過ち」発言の波紋』が面白い。見出しほどの大騒ぎがあるわけではなさそうだが、要は靖国神社の徳川康久宮司が、戊辰戦争の“賊軍”たる幕府側に同情的な歴史観を共同通信のインタビューで披露した、という話だ。

 明治維新直後、官軍戦没者の慰霊を目的に建てられた東京招魂社を前身とする靖国の宮司に、よりによって徳川家の末裔が就いている。それ自体が考えてみれば、相当にシュールな話である。心情的に幕府側の名誉回復をしたくなるのもわかる。ただし、あくまでもこれは、宮司の個人的な見解だということで、靖国神社そのものの戊辰戦争の位置づけが変わるわけではない、ということだ。

 来週は各誌、イギリスショックで特集を組むはずだが、堅苦しい誌面にしてしまうと、読者はそっぽを向く。各誌腕の見せ所である。

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三山喬(みやまたかし)1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。