「オンコロジーMRは、地域包括ケアに対してモチベーションが上がらない。緩和ケアの薬剤を持っているメーカーは、地域包括ケアにコミットしたら、業績につながるが、“治療系”の薬剤が中心の我われには、メリットが感じられない」


 大手オンコロジーメーカーの人に会うと、必ずといってよいほど、言われることである。自社製品の売上につながらないことがやりたくない。非常に正直な意見だ。


 私は講演の中で、自社製品と競合しない範囲で他社とコラボして地域包括ケアに貢献することを提案しているが、“治療系”の薬剤を持つ企業と、緩和ケアの薬剤を持つ企業がコラボすることにより、「ライフコースアプローチ」の完成に大いに寄与できるのではないかと考えている。


 ライフコースアプローチとは、主要な疾病や健康問題について地域ごとに取り上げ、患者の病期・病態に応じてどのような医療・保健などのサービスを受けられるのかをわかりやすく示すことで、その地域における医療提供水準の目標値に対する達成度評価を行う方法であり、第5次医療法改正が議論されていた04年頃によく使われていた言葉である。ライフコースアプローチと、地域包括ケアや地域医療構想の方向性がほぼ同じであることは、説明するまでもないだろう。


 例えば、がん領域では、①検診、②情報(セカンドオピニオン)、③医療の質、④連携、⑤追跡、⑥がん専門医、⑦緩和ケア——というライフコースを患者は辿ることになる(詳細は7月27日に発売される拙著『地域包括ケアとは、○○である』をお読みください)。

 この概念は、すでに各都道府県の医療計画における5疾病・5事業に反映されているので、ぜひ確認していただきたい。自社として、このライフコースアプローチのどのプロセスにコミットすれば、地域包括ケアに貢献でき、かつ自社製品の売り上げを最大化できるのか。


 6月20日には、シミック・アッシュフィールドが日本初となるCSOサービス「シンジケートセールスフォース」の満足度調査結果を発表した。同社によると、シンジケートセールスフォースとは、「フルアウトソースで対象エリアのプロモーションを実施し、MRは複数社の同一領域における非競合製品を担当すること」だという。当然のごとく、医師側の満足度も高かったそうだ。


 地域包括ケアに対して、これまでとは違ったタイプの“コ・プロモーション”が拡大していくことが望まれる。



…………………………………………………………………
川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。