まぎれもない糖尿病の予備軍である。メタボな体に暴飲暴食・喫煙・運動不足、おまけに親が糖尿病と、もう逃げ場がないほど。
糖尿病は、まだ「決定版」とも言える薬がないこともあり、市場の大きい生活習慣病の治療薬の中で今もさかんに開発が続けられている病気である。その糖尿病の全貌をコンパクトにまとめたのが、『糖尿病は自分で治す!』だ。病気の概要から、検査方法、恐ろしい合併症、最新治療薬、日ごろの生活習慣の改善まで、わかりやすく解説している。
困ったことなのだが、糖尿病は〈初期の特徴のひとつに、「何ら目立った症状がない」〉。では、どう診断されるのか?
職場で、健康診断が近づくと、酒を飲むのをやめるなど、急に節制を始める同僚が1人や2人はいるだろう(という自分もそうだ)。糖尿病は血糖値を測定して診断するが、血糖値は食事や運動の影響を受けやすいため、かつては、1回の診断では糖尿病の診断はできなかった。
しかし近年になって、長期にわたる高血糖の存在を調べる方法として「HbA1c」を測定する検査が一般化している。HbA1cは〈ヘモグロビンにブドウ糖が結びついた物質〉で、数値が高いほど、血糖値が慢性的に高いことを示す。
〈採血した日から過去1〜2ヵ月さかのぼってその間の平均の数値がわかります。健康診断の日の1週間前からがんばって禁酒をしたところで、この数字は変えることができません〉というから、健康診断の直前に節制しても、まったくもって無駄なのだ(しないより、少しはマシかもしれないが……)。
糖尿病で怖いのはなんといっても合併症だろう。〈高血糖こそが、全身の大小の血管や臓器を傷つけ、「糖尿病合併症」にいたらしめ〉る。目や腎臓、神経が〈糖尿病の3大合併症〉と呼ばれるもの。〈透析療法を受けている人の数は全国で32万4000人、そのうち糖尿病腎症の人は役11万8000人〉もいるという。注意したいのが神経障害。〈もっとも早く「自覚障害」現れる〉。「手足の先が冷たい」、「足裏がじんじんしびれる」、「こむらがえり」等々、思い当たるふしはないだろうか?
4番目の合併症である動脈硬化を含めて、これらはわりと知られた合併症である。
■認知症やがんとの関係も深い
この本の読みどころは、著者が提唱する「新合併症」だ。認知症(脳血管性やアルツハイマー病)、うつ病、がん、歯周病の4つがそれ。
認知症に関しては、発症のメカニズムの解明はこれからだが、米英日の研究では、血糖コントロールがうまくいっていない糖尿病患者やその予備軍で、認知能力が低下したり、認知症発祥のリスクが高くなっているという結果が出ている。
うつ病に関しては、糖尿病はうつ病の発症リスクを高め、うつ病は糖尿病を悪化させるという相互関係にある。日本の研究では、糖尿病のがん発症リスクは1.2倍になっているという。糖尿病は、さまざまな病気と密接な関係にあるのだ。
意外感があった新合併症が、歯周病だ。一見、関係ないようだが、〈合併症は全身の器官にわたります〉という糖尿病の性格を考えると納得。しかも、糖尿病の人が歯周病を放置すると、インスリン抵抗性が強くなり、糖尿病がますます悪化するというから要注意である。
本書は、SGLT2阻害薬など新たな治療薬、切らずに済む壊疽の治療法など、最新の知見も含まれており、コンパクトながら十分な情報を含む。何より、各所にちりばめられた“恐怖の事例”を通じて、「生活改善をしなければ」と考えさせる1冊だ。さっそく明日からウォーキングを始めるとしよう。(鎌)
<書籍データ>
福田正博 著(集英社新書740円+税)