参院選の結果判明まであとわずか。各報道機関による事前の情勢調査では、自民・公明など改憲勢力が3分の2を占める勢いだという。もしかしたら私たちが生きてきた「戦後」は、後世の歴史家から「この選挙をもって終焉した」と言われる、そんな「時代の区切り」を今、迎えようとしているのかもしれない。


「最後のお願い」をウグイス嬢が絶叫し、窓の外を選挙カーが走り抜けてゆく。筆者はこの原稿を、那覇市の宿で書いている。ここ沖縄選挙区では、全国的な傾向とは異なり、野党統一候補の優勢が伝えられている。米軍基地問題という沖縄特有の問題が、ここでは最大の争点となっているからだ。


 安全保障の負担を国民全体でどう分け合ってゆくか。本来は全国レベルの争点になるべきこのテーマが、悲しいほど本土には広がらない。この現実こそが、現地の人々を暗澹たる思いにさせる「沖縄問題」の本質である。


 週刊文春で坪内祐三氏が担当する文庫本書評コーナーで今週、半世紀前に他界した沖縄出身の詩人・山之口貘の作品集『山之口貘詩集』(岩波文庫・高良勉編)が紹介されていた。偶然にも9日付の現地紙・琉球新報の佐藤優氏のコラムにも、この本と山之口作品が言及されている。


〈お国は? と女が言った/さて、僕の国はどこなんだか/とにかく僕は煙草に火をつけるんだが、刺青と蛇皮線などの連想を染めて/図案のやうな風俗をしてゐるあの僕の国か!〉


「女」はしつこく質問を繰り返し、「僕」の脳裏にはさまざまな思いが駆け巡る。本土の人からは好奇と蔑みの眼差ししか注がれない〝未開の島〟沖縄。「僕」は頑なにその地名を口にせず、「女」の質問をはぐらかそうとする。〈ずっとむかう〉〈南方〉〈亜熱帯〉〈赤道直下のあの近所〉……。


 沖縄にも安倍政権の支持者は一定数、存在して、反基地の訴えに加わらない人たちも少なからずいる。その比率は若い世代ほど高い。時に〝安室奈美恵以後〟という言われ方もするのだが、彼らは年長者の差別体験を共有せず、米軍基地の集中という歴史的・構造的問題の背景にも、それを感じ取る意識は強くない。


 だが5月に発覚した元海兵隊員による女性殺害事件は、そんな新世代にも衝撃を与えた。盤石な安倍政権に対する“蟷螂の斧”。選挙戦で野党候補を応援する沖縄の人々は、全国的な流れを十分に知りつつも、自分たちの誇りをかけ、“独自の闘い”を続けている。


 今週は週刊文春が三菱東京UFJ銀行の『「不適切融資」150億円と「銀座クラブたかり接待」』というスクープを掲載した。銀行側から頼み込み、船舶会社に巨額融資を行ったにもかかわらず、常軌を逸した高額接待を受けまくり、結果的に融資を引き揚げてこの会社を倒産させてしまう、という何ともひどい話である。


 文春と新潮は都知事選への出馬を突然、表明した自民党・小池百合子氏の政治資金問題も取り上げている。例によって収支報告書の疑問を追及する記事だが、個人的な印象を言えば最近、この手の話が多すぎて、多少の疑惑には不感症になってしまっている。覚せい剤事件で逮捕された元俳優・高知東生容疑者の妻・高島礼子氏についての記事(文春、新潮)、文春スクープの『荻上チキの「一夫二妻」生活』もそうである。


 不倫・シャブ・政治資金収支報告書。このところ雑誌報道にはこのパターンがあまりに多すぎる。その点で、文春の『人気AV女優実名告発 「脅迫・洗脳・囲い込み地獄」』は、マンネリを打ち破る独自性があり、興味深かった。 


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三山喬(みやまたかし) 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。