研ファーマ・ブレーンは15年以上にわたってまとめている「2015年世界の医薬品メーカーランキング」および世界の大型医薬品をまとめた「2015年世界の大型医薬品売上高ランキング」を公表した。これは各社が公表している決算の詳細に基づいて作成しており、メーカーランキングは医療用医薬品とワクチンの売上で、大型医薬品ランキングは「創薬したメーカーのオリジナルの製品が世界でいくらの売上となったか」を各社の売上合計からまとめたもの。参考データとして、2014年版のランキングも掲載している。

<2015年世界の医薬品メーカーランキング>
 〜世界市場はドルでは縮小〜


 ここでは、各社の決算発表資料や年次報告書等から医療用医薬品、ワクチン、造影剤等の売上をまとめており、大衆薬(OTC)や動物薬、検査薬などを除外したもの。2015年の為替レートは年平均レートで、ユーロは前年比で▲16.5%、円は▲12.2%となったため、決算通貨では増加しても、ドル換算では売上を減らしたメーカーが多い。例えば4位のサノフィは、ユーロの決算では9.4%増加したが、ドル換算値は▲8.6%で33.0億ドル減少して348.0億ドルだった。ドル以外の多くの通貨の2桁下落により、2015年の世界の医薬品市場はドル換算では減少している。世界の医薬品売上高が2015年に10億ドル以上のメーカー84社の合計額は、2014年の10億ドル以上のメーカー合計額と比べ、▲3.1%の6914億ドルで221億ドルも減少した。なお、10億ドル以上の日本のメーカーは15社ある。


 2015年はファイザーがホスピーラの買収などでトップに返り咲いたものの▲2.5%の445.5億ドル、2位のノバルティスは降圧剤ディオバンのパテント切れで14億ドル以上減少し、米国以外の売上の通貨安の影響も大きく▲7.8%の434.2億ドルだった。C型肝炎薬や抗HIV薬で売上を大きく伸ばしたギリアド・サイエンシズ(社員数8000人、16年1月末現在)は、77.5億ドル増の326.4億ドルで6位へ上昇した。ギリアド・サイエンシズは1人当たりの売上生産性が408万ドル(前期は356万ドル)に達した。

 10位のアッヴィは主力品の抗リウマチ薬ヒュミラの増加と米国の値上げで14.5%増の228.6億ドル、15位のデンマークのノボ・ノルディスクは売上の大きい米国のインスリンなどの増加で21.5%増の160.5億ドルでドルでも増加したが、16位のバイエルは抗凝固剤イグザレルトや黄斑変性症薬アイリーアを伸ばしたもののユーロで14.0%増のためユーロの下落率に届かず、ドルでは8.0億ドル減の159.3億ドルだった。

 日本でトップの武田薬品工業は円では2.1%増だが、ドルでは15.7億ドル減の136.8億ドル、日本2位のアステラス製薬は前立腺がん薬イクスタンジの急増で10.1%増と2桁伸ばしたが、円安のためドルでは3.9億ドル減の132.3億ドルで、順位は世界19位で前期と同じだった。

 20位のアラガンは、旧アクタビスが米アラガンを買収して社名をアラガンに変更し、本社を法人税率が12.5%と安いアイルランドとした。売上が減少しているのは、12位のジェネリック最大手テバ製薬工業(Teva Pharmaceutical Industriesの和訳)へジェネリック事業を売却することになっており、そのジェネリック事業の63.8億ドルを非継続事業として純利益だけしか計上していないためだ。そのジェネリックを加えると174.6億ドルあり、順位はテバに続く13位となるが、その場合は2016年の売上高が急減することもあって決算では除外されている。

 70〜20億ドルにある日本の6社を示したが、自社で創製した抗HIV薬を大きく伸ばした47位の塩野義製薬を除き、5社は順位を落としている。

 また、2014年のメーカーランキングは一般向けに公表していなかったため、参考までに2014年の世界の医薬品メーカーランキングも示した。なお、この2014年のメーカーランキングは、厚生労働省の「医薬品産業強化総合戦略」(H27.9.4公表)を始め、掲載依頼のあった経済誌、新聞等で以前から広く使われている。


<2014年世界の医薬品メーカーランキング>


<2015年世界の大型医薬品売上高ランキング>

 次に示したのは2015年の世界の大型医薬品売上高ランキングである。ここでは世界で30億ドル以上の上位28製品の売上高を示した。



 この大型医薬品ランキングは、メーカー各社が公表している医薬品の売上に基づき、創製したメーカーの売上とロイヤルティ、導出(ライセンス)したメーカーの売上を合計することにより、「オリジナルのメーカーが創製した医薬品が世界でどれだけの売上を創り出したのか」という世界売上を過去15年以上にわたってまとめているもの。ドル換算値は2015年の年平均レートで、上の表では、製品名にアミを掛けたものはバイオ医薬品、一般名にアミを掛けたものは日本のメーカーの創製品である。減少したものは前期比にアミを掛けた。

 2015年の大型医薬品売上高ランキングでは、米国で2013年12月の登場時に1錠1000ドルという非常に高価な薬価を設定したC型肝炎薬の「ソバルディ」(84日服用で84000ドル)およびその配合剤である「ハーボニー」(同じく84日で94500ドル)の売上が2015年には世界で54%増の191.4億ドルとなり、世界最大の医薬品となった。

 2位の製品はアッヴィのバイオの抗リウマチ薬「ヒュミラ」で、これは日本と一部のアジアで販売しているエーザイの売上を加えたもの。ヒュミラは2012年〜2014年には世界最大の医薬品だった。(参考:2001年〜2011年はファイザー/アステラス製薬の高脂血症薬「リピトール」が世界最大の医薬品。)


 2位のヒュミラから8位のハーセプチンまではすべてバイオ医薬品で、10位には肺炎球菌ワクチンのファイザーの「プレベナー」が入り、上位10製品のうち8製品がバイオ医薬品となった。2014年は7製品がバイオで、バイオ医薬品が世界の全医薬品売上に占める割合は年々上昇している。ここでの表は30億ドル以上の28位までだが、上位50製品で見ると、22製品がバイオ医薬品となり、50製品の売上合計に占める割合は49.3%に達しており、2014年の47.5%を抜いて過去最大となった。また、ユーロは2014年比で▲16.5%、円は▲12.2%と2桁下落した通貨が多かったため、上位50製品の売上合計は2014年より▲0.2%と微減で、2267.8億ドルとなっている。なお、後ろに2014年の30億ドル以上の大型医薬品売上高ランキングも示しているが、2014年は30億ドル以上が32製品で、2015年の28製品より4製品多く、為替の影響が出ている。世界的大型品は世界中で販売されており、米ドル以外の多くの通貨が2桁下落したためだ。

 日本のメーカーによる創製品は、2015年の30億ドル以上では、塩野義製薬が創製した12位の高脂血症薬「クレストール」(ロスバスタチン)、田辺三菱製薬が創製した25位の多発性硬化症薬「ジレニア」(フィンゴリモド)の2製品だけとなった。大塚製薬創製の抗精神病薬「エビリファイ」は2014年に世界12位だったが、米国でパテント切れてジェネリックが登場したため急減し、28位内に入らなかった。クレストールも2016年5月に米国でジェネリックが登場し、表で18位の白血病薬でノバルティスの「グリベック」も2016年2月に米国でジェネリックが登場したほか、26位の抗潰瘍剤「ネキシウム」も欧米ではジェネリックが増えており、これらは2016年の上位の大型品からは消える見込み。これにより、化学合成による低分子薬の大型品は今後さらに減少する。なお、28位にはアステラス製薬が米メディベーションからライセンスして世界的に販売している前立腺がん薬「イクスタンジ」がランクインした。


 2015年の大きな変化として、4位の抗リウマチ/クローン病などのバイオ医薬品である「レミケード」には英仏独などヨーロッパ主要国でもバイオシミラーが登場し、それにユーロ安も加わってレミケードは▲10%の89.31億ドルと初めて2桁減少した。このようなトップ10に入るバイオ医薬品が2桁減となったのは初めてで、今後はバイオシミラーが登場すれば、以前の予想より影響が拡大する可能性が高まってきた。日本でもレミケードと6位のインスリンアナログの「ランタス」にバイオシミラーが登場しており、世界の医薬品業界は大型品のパテント切れなどによる上位製品の入れ替わりで転換期に入っている。


 2015年にはランキングを公表していなかったので、参考データとして2014年の世界で30億ドル以上の大型品ランキングも後ろに示した。なお、この2014年のランキングデータも厚生労働省の「医薬品産業強化総合戦略」(H27.9.4発表)で使われている。

■2014年世界の大型医薬品売上高ランキング



<2015年世界の医薬品メーカーランキング/大型医薬品売上高ランキングについて>

 「2015年世界の医薬品メーカーランキング」「2015年世界の大型医薬品売上高ランキング」についてさらなる詳細をまとめたデータは、「新ファルマ・フューチャー」2016年6-7月号(新創刊号)に掲載しています。メーカーランキングでは世界の3億ドル以上の139社、大型医薬品ランキングでは世界で3億ドル以上の346製品をまとめて分析しています。なお、これらのデータはすべて公表されている売上を元に、研ファーマ・ブレーンが独自にまとめたもので、他社の調査データとは一切関係がございません。


このリリースに関するお問い合わせ、引用・掲載依頼等のご連絡は、
kentaro.nagae@gmail.com へお願いします。


 この情報誌についてのご案内は下記を参照下さい。

「新ファルマ・フューチャー」2016年6-7月号 ランキング特集特別号
(目次の詳細も掲載しています)


新ファルマ・フューチャーは隔月刊誌で、割安の定期ご購読もあります。
トップページからもリンクされています。

<研ファーマ・ブレーンについて>
 研ファーマ・ブレーン 代表 の永江研太郎は、元(株)ユート・ブレーン取締役。1996年、ユート・ブレーンより海外医薬品業界情報誌を創刊。1999年3月には厚生省(当時)から委託を受けた「先進諸国の医薬品産業及び医療環境について」(全340頁)の調査報告書をまとめており、20年にわたって海外の医薬品産業に関する調査・執筆・講演活動を行っており、毎年秋には「海外医薬品市場セミナー」を開催してきた。


 2016年5月に「研ファーマ・ブレーン」として独立し、海外医薬品情報誌「新ファルマ・フューチャー」を6月末に創刊した。隔月刊誌として執筆・編集発行する傍ら、現在も大手製薬企業での講演や業界誌、経済誌等で執筆を行っている。