「日本を取り戻す」というキャッチフレーズを用いて2012年衆議院総選挙で政権を奪還した安倍晋三総理が、昨日10日に投開票された参議院選挙で使ったのは、「この道を。力強く、前へ」だった。


 この2つのキャッチフレーズは、MRとともに「不要論」を言われがちな薬剤師にも使える。


 通称“ヨンサンマル通知”(医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について)が2010年4月30日に発出されてから、薬剤師に対する注目と期待が高まるようになった。


 同通知では、「薬剤師を積極的に活用することが可能な業務」として、「薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協働して実施すること」を含む9項目について、薬剤師を積極的に活用することが求められた。


 掲げられた9項目は、いずれも薬剤師の本来の仕事を“取り戻す”ものだ。


 この通知が12年度の「病棟薬剤業務実施加算」の新設につながり、「プロトコールに基づく薬物治療管理」(PBPM)導入に拍車がかかった。


 そんななか今年に入り、以下の3つのレポートが立て続けに出されている。


◎プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の円滑な進め方と具体的実践事例(Ver.1.0)


◎「薬剤師の病棟業務の進め方(Ver.1.2)」について


◎「プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)導入マニュアル」


 それぞれのレポートに幾度となく出てくる「PBPM」(Protocol Based Pharmacotherapy Management)とは、「医師・薬剤師等が事前に作成・合意したプロトコールに基づき、薬剤師が薬学的知識・技能の活用により、医師等と協働して薬物治療を遂行すること」を意味する。以前は、欧米から“輸入”された「CDTM」というキーワードが用いられていたが、制度上の理由でそのまま導入できないと判断され、「PBPM」が使われるようになった。


 3つのレポートのうち、特にMRに読んでもらいたいのは先月出たばかりの「プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)導入マニュアル」だ。同マニュアルには、「医師と薬剤師の協働・連携で作成したプロトコールに基づくストレス潰瘍予防のアウトカム」や「HIV外来と抗MRSA薬治療における医師・薬剤師協働プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)」などの事例が、医療の質▽患者▽医療スタッフ▽経済的という4つの視点をもとに紹介されている。


 薬剤師がPBPMを推進して本来の仕事を取り戻し、この道を力強く前へ進むようになると、“MRベースドメディスン”(MRBM)は通用しなくなる。PBPMの流れをうまく活用するような活動にシフトしなければならない。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。