デンスブレスト

from ドラマ『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』

(フジテレビ、2019年4月22日放送)


 さまざまなメディアで日々使われ、一般のひとの耳・目に入るコトバから、気になるものを取り上げる。今回は、診療放射線技師・唯織(いおり)を主人公にした月9から。


◆放射線科医は忙しい


 家族歴があり、乳がんで祖母と母親を亡くしたことから毎年マンモグラフィ検査を受けてきた30代の医学雑誌編集者・今日子。7つ年下のカレとの結婚を控えて撮った画像を医師が見て・・・


●放射線科長

「あ~、乳腺密度の濃いデンスブレストですか」

○放射線科医(主人公が片思いしている女医、杏)

「これでは乳腺に覆われていて正確な診断が・・・」

●科長 「デンスブレストはしみやそばかすと同じで、よくある身体的特徴のようなものです。ま、病気が見つかったわけでない以上、われわれは『異常なし』と書くしかありませんよ」

○杏 「・・・」

●科長 「あ~、未読58件か」(←要読影件数)


「異常なし」と書かれた診断書を手に、ほっとして帰りかける今日子。しかし、家族歴からマンモでは見つからない乳がんがある可能性を疑い、本人にも放射線科医にも頭を下げて超音波検査を受けるよう頼み込む唯織。


 超音波検査でも異常はなかったが、唯織はさらに放射線科長に「100人いたら99人『異常なし』とする結果なのに、高額で時間のかかる検査をしたいとはどういうつもりだ!」と怒鳴られながらも、本人の了解を得て造影剤を用いた乳房MRIを行う。


 結果は「クモの巣状の非浸潤性乳がんあり」。放射線科長は「命を確実に守るために」乳房全摘を勧める。ショックを理性で抑えながら受け入れる今日子。


 迎えに来たカレは、「僕だって年をとったらメタボになるかもしれないし、髪だってそのうちなくなるかもしれない。見た目が変わるなんてお互いさまだよ」と優しい反応を見せる。


◆マンモの補助手段導入は慎重に


 ドラマとしてのまとめ(ナレーション)はこうだ。


「デンスブレスト(以下DB)とは、乳腺組織が多く存在する乳房を意味する。日本では半数以上の女性がDBであり、年齢によっては60%とも70%とも言われている」


「DBの場合、マンモグラフィではがんを見つけにくい。それは例えるなら、雪山の中で白ウサギを探すのに似ている。まずはマンモグラフィで石灰化の有無を調べること、それと同時に自分がDBかどうか自ら医師に尋ね、そうである場合は超音波検査等の併用を希望することが望ましい」


 視聴者からはさっそく、「明日、乳がん検査予約する」、「勉強になった!」、「検査行くの面倒に思ってたけど自分の身は自分で守らなきゃ」などの反応が寄せられているようだ。


 ここで気をつけなければいけないのは、今日子が受けたのは、あくまで本人の意思による任意型検診であるということだ。


「高濃度乳房」問題への対応について日本乳癌検診学会・日本乳癌学会等の提言(2017年3月)で、科学的根拠のある検診はマンモのみとされた。乳房超音波検査は、デンスブレストに対する検診方法として期待されているものの、死亡率減少効果が明らかでなく、不利益を最小化する対策や全国的な実施体制の整備等の課題が残されている。


「乳房の構成」は受診者個人の情報であり、知る権利は尊重されるべきだが、乳房濃度を伝えるだけでなく、乳がん検診の限界、デンスブレストであることの意味、自覚症状が生じた場合の対応等の情報提供体制を整備することも今後の課題とされた。


◆対策型検診では推奨されないMRI


 さらに、あれよあれよという間に今日子が受けたMRIについても、一般視聴者には「進んだすばらしい検査」との印象だけが残るかもしれない。


 諸外国では、ハイリスク患者に対し、MRIを用いたスクリーニングが行われ始めているというが、わが国では乳がん発症ハイリスク女性の認識、適切な撮影・読影法が十分確立していない。


 日本乳癌検診学会のガイドライン2018年版には、真に有効と判断できるエビデンスレベルの高いデータが示されるまでは、デンスブレストの女性に対する対策型乳がん検診にマンモグラフィの補助的検診手段を導入することは慎重であるべき旨が(もっと複雑な表現で)記載されている。


 実は他にも気になったコトバが「ラジエーションハウス」。放射線科ならDepartment of Radiology くらいじゃないのか。と思ったら、どうも原作漫画家の造語らしい。


 院長が唯織にパンダ茶(糞から作った栄養たっぷりのお茶だとか・・・)をすすめながら語った「技師と医者もそれぞれ足りないところを補い支え合うことで、きっと救える命がある。完璧な検査がないように、完璧な医者だっていないんだから」というセリフから予測して、放射線科や病院がやがてひとつの家のような一体感を持つようになるのだろうか。


 今後の展開に注目したい(玲)。