氏名や生年月日、連絡先やアレルギー・合併症の有無などの基本情報に加え、血圧データ、検査データ、さらにはお薬手帳の機能もプラスされている「医療連携携帯手帳」が横浜市保土ヶ谷区で活用されている。


 考案したのは、約1年半前に独自のMR認定制度の創設構想を発表し、“MR業界”を震撼させた宮川内科小児科医院の宮川政昭院長だ。筆者は自分のお薬手帳に“独自に”検査データを貼っているが、「医療連携携帯手帳」のような手帳があったら、医療従事者とのコミュニケーションが円滑になるだろう。


 なぜ、宮川院長は、新制度をつくるほど現状のMRに対して不満を持っているのか。その答えを探しに7月23日に都内で開催されたJASDIフォーラム「その医薬品情報は患者のためになっているのか〜チーム医療における医薬品情報のあり方を考える〜」を取材した。


 「(ネットを見ればわかる)当たり前の情報しか出せない企業の手先になってしまっている」と厳しい宮川院長は、「エビデンス・ベースド・プロモーション」は終焉したのだから、「Value-Based Medicine」(多様な価値に基づいた医療)を意識しなければならず、「答えは常にひとつの文化」からの脱却を製薬企業、MRに求めた。


 実臨床では答えが出ないことが多く、その答えに対しても、経済的な理由などで患者から「NO」と言われてしまうこともあるという。そのため、宮川院長は生活リズムのヒアリングや元気度チェックを繰り返し、患者の心に近づくための努力をしている。


 この日のフォーラムでは、宮川院長の前に、患医ねっとの鈴木信行代表が「患者が病気と向き合う気持ちと、くすりに対する期待と不安」をテーマに講演した。鈴木代表は、2週間前に甲状腺がんの手術を受けたばかりということもあり、患者が求める情報について感情がこもった説得力のある話をしてくれた。


 鈴木は、患者が必要とする情報を「医療」情報と「生活」情報に分けて説明したが、前者はネットの検索結果に伴う“広告”に妨害されて必要な情報にたどり着けず、後者は医療従事者があまり考慮してくれないために、入手することが困難なのが実情だと指摘していた。


 医師も患者も悩んでいる。患者が本当に欲しい情報とは何か。患者に必要な情報は何か。ぜひ、医師や薬剤師などとともに考えてみよう。

…………………………………………………………………
川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。