7月26日未明、国内犯罪史に残る凄惨な事件が勃発した。相模原市の福祉施設に侵入したひとりの若者が、19人もの入所者を次々と刺殺した障害者虐殺事件である。28日発売の週刊文春と新潮は、まさに締め切りギリギリに発生したこの事件を、かろうじて今週号に突っ込んでいた。


 おそらく何人もの記者がドタバタで間に合わせた記事なのだろう。正直、その内容に特筆すべきことはない。ただ、新潮の特集には、そのリードに《障害者を人間として認めない「ヘイトクライム」の深い闇》という一文が記されていた。


 そう、まだ不確かな要素が多すぎて確たることは言えないが、今回の事件は殺害された人数の多さばかりでなく、容疑者が障害者への尋常ならざる差別思想の果てに犯行に及んだ、という点で、ほとんど例を見ない戦慄すべき出来事であった。


 にもかかわらず、多くの新聞やテレビは、事件の「ヘイトクライム」という側面を深く掘り下げようとする気配がない。「○○を皆殺しにしろ」と差別対象者に叫ぶのがヘイトスピーチなら、それを本当に実行してしまうのがヘイトクライムである。


 実際、容疑者のツイッターアカウントには、いわゆるネット右翼界隈での“オピニオンリーダー”たち、歯に衣着せぬ発言で人気の右派文化人がずらりと名を連ねていたといい、今回の狂気の犯行の背景に、ヘイトに寛容な近年のネット文化があったことが見て取れる。


 もちろん今週の週刊誌は第1報を載せるのがギリギリだったため、詳報は次週になるはずだが、この部分にどれだけ踏み込めるか、という点では、雑誌ジャーナリズムにも正直、あまり期待できそうにない。


 差別的言辞に寛容な今の世相をつくり出した責任の一端は、間違いなく一部保守論壇誌や週刊誌にもあるからだ。自分たちにとって“不都合な真実”にはおそらく、あいまいに蓋をしてしまうことだろう。論争的テーマに腰の引けた新聞やテレビもまた、容疑者個人の“異常性”のみをクローズアップしてお茶を濁す可能性が高い。国内の言論状況はいつの間にか、そこまで劣化してしまっている。


 週刊ポストは『「生前退位」NHKスクープと朝日新聞「断定」報道の裏 天皇の「覚悟」と「宮内庁の五人組」』と題した8ページでの巻頭特集を組み、参院選の分析と都知事選のドキュメントでも力の入った記事を載せている。


 もちろん、定番のシニア向けセックス記事や健康記事も相変わらず載せているのだが、今週号にはPL野球部“最後の夏”のドキュメントや相撲協会の内紛にまつわる関係者「怪死事件」の追及もあり、いつもとは少し雰囲気が違っている。


 あくまでも“たまたま今週だけ”のテイストかもしれないが、もし多少でもジャーナリスティックな色合いを再び強める方向に軌道修正を図ろうとしているなら、喜ばしいことだ。手間暇とコストをかけずにページを埋めていく。そんな雑誌づくりを続けても、その先に未来はないと思うからだ。時事問題を追う雑誌ジャーナリズム本来の姿への“戦線復帰”を期待したい。 


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三山喬(みやまたかし) 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。