「25年前は情報がなくて困ったが、今は情報が氾濫して患者さんが困っている」——。8月6日から開催された「Japan Cancer Forum 2016@日本橋」では、同フォーラムを主催したNPO法人キャンサーネットジャパンの創始者である南雲吉則医師がオープニングセッションでこう語った(動画出演)。


 フォーラムでは、各がんの治療や薬物療法に加え、支持療法、臨床試験、心のケア、看護師や薬剤師の役割、医療関連制度などのセッションが数多く盛り込まれていたが、筆者がMRやMSにぜひ聴いてもらいたいと思ったのは、「がんと口腔ケア」だった。


 7月27日に発売した拙著『地域包括ケアとは、○○である』(https://consunalist.jp/)の中で、「地域包括ケアとは、医科歯科連携を進めることである」と書いたが、16年度の診療報酬改定では、入院基本料加算の「栄養サポートチーム加算」に院内または院外の歯科医師が参加し、当該チームとしての診療に従事した場合を評価した「歯科医師連携加算」(50点)が新設されたり、「周術期口腔機能管理後手術加算」が100点から200点に大幅アップするなど、医科歯科連携への期待度の高さが窺える内容となった。


 「がんと口腔ケア」のセッションで講演した静岡県立静岡がんセンター歯科口腔外科の百合草健圭志部長は、「がん患者の4人に1人が口内炎がつらかったと答えている。口腔ケア、歯科支持療法を行わないと標準的な治療を遂行できずに治療成績を低下させてしまうことにつながる」と述べ、がん治療では特に医科歯科連携が求められると指摘した。実際に、▼手術後の肺炎、傷口からの感染リスクの減少▼入院期間の短縮▼手術後の合併症の減少——などの効果が口腔ケアによって得られているという。


 連携に協力してくれる歯科医師はどこにいるのか? 実は、日本歯科医師会が主催する「全国共通がん医科歯科連携講習会」を受講し、がん患者さんへのお口のケアや歯科治療についての知識を習得した“がん診療連携登録歯科医”が全国に約1万2000人も登録、名簿はこのサイトで公開されている。


 がん領域のMRは、担当エリアのがん診療連携登録歯科医を確認し、勉強会などの企画を考えてみてはいかがだろうか。


 フォーラムのボランティアスタッフのTシャツには、“Know more cancer”(がんのことをもっと知ろう)と書かれていた。これは、患者さんへのメッセージだが、我々ももっと知る必要がありそうだ。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。