「今後100日かけて課題を洗い出す」


 セブン&アイ・ホールディングスの井坂隆一社長は今年5月の社長就任直後の会見で、こう宣言したが、100日を待たず鈴木敏文名誉顧問が広げた戦線の見直しに乗り出した。赤字続きで懸案だったカタログ通販のニッセンを完全子会社化し、徹底したリストラを断行するほか、そごう・西武の追加の店舗閉鎖を決めた。


 かねて証券アナリストらからは「セブン&アイは、セブン-イレブン・ジャパン以外の会社を切り捨てれば、株価が2倍になる」などと言われてきた。しかし、そごう・西武やニッセンなどは鈴木氏が決断した買収案件だったため、鈴木氏自身がリストラに踏み切れなかった。そんな聖域に踏み込む改革を開始する格好だ。


 しかし、セブン&アイ最大の懸案である総合スーパー(GMS)の立て直し策は、創業家である伊藤家への配慮もあり、依然遠慮気味。今回の鈴木氏を退任に追い込んだ“井阪クーデター”も伊藤家の後ろ盾があればこそ成し得たとも言える。「100日改革」でヨーカ堂の改革にどこまで迫れるかが次の焦点だ。


 セブン&アイは会長を退任した鈴木氏がイトーヨーカ堂の代表権のある会長、そしてセブン&アイの会長に就任して以降、そごう・西武、ロフトの買収などのほか、最近ではニッセンホールディングス、さらにバーニーズジャパン、インテリア雑貨専門店のバルスなどを相次いで傘下に入れ戦線を拡大してきた。


 そごう・西武は別にして最近のM&Aは、ひとえに鈴木氏が掲げたネットと店舗を融合させる「オムニチャネル」戦略で商品的な差別化を推進させる狙いがあったと言っていい。ネット通販市場ではすでに低価格戦略や迅速な物流体制ではアマゾン日本法人などが先行しているからだ。


 セブン&アイのオムニチャネル化では商品的に差別化された商材を持つ流通業を傘下に入れることで、他のネット通販と違いを打ち出す狙いがあった訳だ。


 そしてもうひとつ、一連のM&Aは鈴木氏の次男である康弘氏がオムニチャネル事業の責任者を務めていることもある。もちろん、店舗を持つ流通業の宿命として、ネットと店舗を融合したオムニチャネル化に向かわざるを得ないが、鈴木氏に、いわば子孫に美田を残す発想がまったくなかったのかといえばそれはノーだろう。


 ただ、いくら今後の成長エンジンのため、子息のためとはいえ、相次いで買収したニッセンにしても、バーニーズにしても、バルスにしても、相乗効果らしいものがほとんど出ていないのが実情だ。


 ニッセンの業績が核になっているとみられる16年2月期のセブン&アイの通販事業売上高は約1587億円。しかし、営業損益は84億円の赤字だった。15年2月期よりも10億円ほど赤字幅が拡大している。


 今回、抜本的なリストラに踏み切るニッセンは上場しており決算を開示しているが、15年12月から16年6月までの半期の連結売上高は前期比▲27%の576億円、当期損益は46億円の赤字だった。しかも同社の純資産は6900万円で自己資本比率は0.1%、今年12月末には債務超過は不可避的で、資金繰りに重大なリスクが生じる恐れがあったため、セブン&アイが完全子会社化し、大胆なリストラを展開することにした。


 オムニチャネル化の推進力になるはずだったニッセンの完全子会社化は、債務超過という危急の問題を回避するための決断だったといえるが、井阪氏がセブン&アイの社長に就任して以来、鈴木氏の広げたお膳の縮小策を早くも繰り出してきた形であるとともに外部の声にも配慮した格好となっている。


 セブン&アイでは合わせて、そごう・西武の「西武筑波店」(茨城県つくば市)、「西武八尾店」(大阪府八尾市)の2店の閉鎖(17年2月)も決定、350人の希望退職を募集するリストラ策も発表した。


 しかし、セブン&アイにとってより深刻なのは、コンビニ事業に次ぐ柱であり、売上高が大きい祖業のイトーヨーカ堂だ。16年2月期は約140億円に及ぶ営業赤字を計上、業績不振が続く。そのためヨーカ堂では17年2月期までに20店、20年2月期までに20店の閉鎖を公表している。ただ不採算店の閉鎖は一時的な止血策にしかならず、抜本的な業績の立て直し、解決策にはならない。


 ヨーカ堂も資本関係のある地域の食品スーパーなどとの商品政策の一本化や物流の共同化など、立て直し策を模索しているが、決定打にはなり得えていない。


 今回、鈴木氏退任の引き金を引いた出来事には諸説ある。しかし、実態として創業家である伊藤家を担ぐ一派がクーデターのリーダー的な役回りを演じた井阪社長の背中を押したのは確かだろう。その経緯からすると、井阪氏もヨーカ堂の抜本策には踏み切りにくい。しかし、いつまでたっても浮上しないGMSは店舗、商品、品揃えなど何もかもが再定義の局面を迎えているのは間違いなく、井阪体制にとって今後ヨーカ堂問題は創業家に一定の配慮をしつつ対応策を考える難しい舵取りが迫られる。(原)