地域包括ケアの流れを受けて、医薬品業界ではエリア・マーケティングの必要性が叫ばれている。


 エリア・マーケティングの成功例としては、横浜DeNAベイスターズが人気球団になったことが挙げられる。TBSがオーナーだった“暗黒時代”には、地元横浜でも「ベイスターズファン」と公言できないほど肩身の狭い思いをしたが、DeNAがオーナーになった11年からは、神奈川県内の小学校、幼稚園、保育所などに通う約72万人の子どもたちにベイスターズの帽子をプレゼントしたり、若い男女に横浜スタジアム(ハマスタ)に来たいと思わせるイベントを立て続けに企画するなどして、ついに神奈川県内で人気ナンバー1の球団になった。おかげで、チケットの入手が困難になったが、370万人超の横浜市人口の100人に1人が来れば余裕で満席になるハマスタを、これまで満員にできなかった過去のオーナー企業が無能だったという見方もできる。


 一方、書店では、エリア・マーケティングの教科書的な新書が売れている。『キリンビール高知支店の奇跡』は、キリンビールの元代表取締役副社長、田村潤さんがアサヒビールの「スーパードライ」が全盛期だった90年代後半に“ダメ支店”の高知支店長に就任してから、▼会議を廃止▼内勤の女性社員を営業に回す▼本社から下りてくる施策を無視▼高知限定広告を打つ▼「ラガーの味を元に戻すべき」と本社に進言——などの改革を実行した生々しい記録が描かれている。


 同書を読んで私が最も共感したのは、高知に関するデータの中から、「ラガー瓶消費量全国1位」というデータを見つけ出し、それを地域限定の広告戦略に用いたことだ。これが、離婚率が全国1位から2位になっても悔しがる県民性を持つ高知の人々の琴線に触れることができたという。


 担当エリア独特のデータを見つけ出し、それを医薬品のエリア・マーケティングに活用できないだろうか。各種データを洗い直してみよう。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。