本連載の「人間にしかできないことは何か?」で紹介した大塚製薬とIBMのWatsonテクノロジーのコラボによるデジタルヘルス・ソリューションの名称が「MENTAT」(メンタット)に決まった。同サービスを展開するのは、大塚製薬とIBMによる合弁会社「大塚デジタルヘルス株式会社」が行っていくという。


 筆者が入手した「MENTAT」のサービス概要の説明文書によると、患者情報では▼入院患者リスト(入院患者に対して、入院の長期化や早期再入院の傾向の有無を表示)▼難易度▼アウトカム(類似患者の入院期間、再入院までの基幹の統計値を表示)▼処方推移▼詳細情報▼書類作成、ダッシュボードでは▼ベストプラクティス症例▼地域移行状況▼高難易度患者の担当状況▼病床管理▼退院調整、この他に症例検索(テキストマイニングで取得した▼患者軸▼入院軸▼処方軸——の約60項目の情報から症例を検索)を含めて全12機能を契約した病院は利用することができる。


 このうち、注目すべきなのは「ベストプラクティス症例」と「地域移行状況」の説明部分に“担当職員を表示”という文言が含まれていることだ。


 「ベストプラクティス症例」では、「高難易度でもアウトカムの良い患者をベストプラクティスとし、その割合と担当職員を表示」、「地域移行状況」では、「低、中難易度の患者が早期退院し、地域生活に移行できた割合と担当職員を表示」と記載されている。


 つまり、良いアウトカムを実現した職員を特定して評価することが可能ということだ。人間が評価するのとは違い、Watsonには“バイアス”がない。これまで以上に、良いアウトカムに貢献することが医療スタッフのモチベーションになっていくだろう。


 そうなると、製薬企業やMRは、自社製品が得意先のアウトカムと評価に対し、どのようなソリューションを提供できるかを提示できなければならない。


 Watsonなどの人工知能やITソリューションンの導入の有無に限らず、医療機関のアウトカム志向は今後拡大していく。セールス・フォースではなく、アウトカム・フォースに転換しなければならない。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。