仕事帰りに映画『シン・ゴジラ』を観た。知人が同作品を大絶賛していたため、期待値のハードルが高くなっていたが、絶望と希望の感情が交互に押し寄せる神(シン)作品だった。


 「とにかく観て!」と知人に言われて私は観たが、同じように著名なスピーチコンサルタントに「おもしろいから観てください」と伝えても興味を持ってもらえなかった。


 しかし、「ゴジラの映画なのに、ゴジラはあまり出てこない政治ドラマです。通常の映画よりも台本が1.6倍もあり、そのほとんどが対話なんです」と説明したら、「対話? それは私の専門だから興味が湧いた」と言ってくれた。


 MR認定センターが8月27日に都内で開催した「時代の転換期でMR活動を考える」セミナーでは、アステラス製薬、日本イーライリリー、日本ベーリンガーインゲルハイムの人材開発部・研修部のトップが、それぞれのMissionとVisionに基づいた研修体制をプレゼンした。


 アステラスは、「知識」(医師が診る多様な患者像を理解できている)、「スキル」(自ら実践し、共有・活用できている)、「マインド」(患者基点でエリア全体を意識できている)の3つを継続研修のコンセプトとして挙げ、営業所全体で若いMRを育成する風土を醸成していることを明らかにした。


 イーライリリーは、2020年にめざす姿に「MRは最も信頼できる頼りになる情報源と評価されるべく、継続して教育を受け、育成されている」というビジョンを掲げ、ドクターを4つのパターンに分類するなどの独自のセリングスキルに磨きをかけているほか、最新情報等(学会情報・社内医師講義)の提供と、最新の現場ニーズ(顧客電話窓口から入手)への対応を今年から強化したという。


 ベーリンガーは、▼病態疾患の基礎知識▼患者軸の視点▼製品知識——について、質問力を軸とする適切な質問および情報提供力に磨きをかけ、「こういう患者さんなら、うちの製品がお役に立てます」と自信を持って伝えられるMRの育成を心がけているそうだ。同社の山崎秀雄研修部長は「サイエンス」「ネットワーク」「巻き込む力」を今後のMRに求められるキーワードとして挙げた。


 冒頭で紹介した『シン・ゴジラ』を観る気になった知人のスピーチコンサルタントは、スピーチを“コンテンツ”と“デリバリー”(話し方)に分けて生徒を指導している。3社の研修トップの話を聞くと、“コンテンツ”は充実してきたように思える。あとは、ドクターがコンテンツに興味を持つようにMRが“デリバリー”できるかが勝敗を分けることになりそうだ。



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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。