『美しい歯と口』は、サブタイトルに「オーラルフレイル予防の秘訣」(注:“オーラルフレイル”とは“口の虚弱”の意味)とあるとおり、「歳をとっても自分の歯で食べたい」という人にとって、“かゆいところに手が届く1冊”である。


 歯は健康の基本ともいうべき存在だ。噛む、すりつぶす、切るなどの機能を持つ。歯なくして、食べるのは難しい。発声や顔の表情にも、歯は大きな影響を与えている。しかし、虫歯になったり、歯をぶつけたりして歯を失うこともある。40代ともなれば歯周病のリスクも高くなる。体と同様に、歯も歳をとるのだ。


 著者、佐藤裕二・昭和大学歯学部教授は高齢者歯科学が専門。本書では歯が果たしている役割から、老化によりにより歯と口が衰える〈オーラルフレイル〉や口臭のメカニズム、義歯の正しい使い方まで、高齢者の歯に関するありとあらゆる論点を平易に取り上げる。


 口の虚弱のひとつ、歯の老化にもさまざまな形があるが、歯の美しさに影響するものとしては、歯がすり減る〈咬耗〉(こうもう)、もろくなってひびが入る〈亀裂〉、歯肉が小さくなる〈退縮〉などが代表的だ。


“かゆいところに手が届く”と記した通り、本書の内容は極めて具体的だ。例えば、専門医の資格。誇らしげに各種「認定証」を掲げる歯科医院は多いが、実はその“格”は必ずしも同一ではない。


 広告できるものとなると、口腔外科、歯周病などわずかに5つ。他にも主要な学会が記されているので、自身の通う歯科医院の認定証をチェックしてもいいだろう(マイナー学会だからといって、必ずしも信頼できないわけではないが……)。

 虫歯や歯周病を防ぐための予防法や生活習慣も具体的だ。チョコレートなど甘いものはもちろん、レモンなど酸味の強いものも〈細菌が作り出す酸の作用を強めるため〉、虫歯を防ぐ観点ではよくないようだ。


 また、〈だらだらと食事したり、間食が多いと、歯が溶ける時間が長くなり、再石灰化しきれなくなり、う蝕が進行〉するという。昨今はだいぶ減ってきたが、“はしご酒”はまさに、だらだら食事が続いている状況である。


■高齢者の歯のトラブルが増えた訳


 意外だったのは、近年、高齢者の虫歯や歯周病が増えているという事実だ。


 これには裏がある。


 さかのぼること30年、平成が始まった1989年に〈80歳で、20本の歯を残す〉という8020(ハチマルニイマル)運動が開始された。1987年の調査では、70~74歳の高齢者は親知らずを除く全28本の歯のうち20本を失っていた。それが、今では〈残っている歯の数は20本に〉なった。80歳で20本を達成した人も半数を超えたという。


 通常、20本残っていれば、自分の歯だけで食べられるとされる。高齢者のQOL(生活の質)はずいぶん向上したはずだ。


 歯が残ったからこそ、高齢者の虫歯や歯周病が増えたのだ(歯がなければ虫歯にも歯周病にもなりようがない)。


 歯が残ったこと自体は喜ばしい。ただ、注意したいこともある。歯周病は狭心症や心筋梗塞といった心臓の病気、脳卒中、糖尿病との関連が指摘されている。歯が残った高齢者は、引き続き歯のケアを続けていく必要があるのだ。


 自身の話をすると、一昨年、軽度の歯周病と診断されてから、定期的に歯科医院に通うようになり、歯間ブラシ4本、フロス3種、歯ブラシ2種を使い分け、日頃のケアを行っている(デンタルケアのメーカー社員にもあきれられるほどだ)。


 本書を読めば、まだまだできるケアがあることがわかる。どれから始めようか? 禁煙が一番なのはよくわかってはいるのだが……。(鎌)


<書籍データ>

『美しい歯と口』

佐藤裕二著(サンエイ新書900円+税)