さえない編集者時代に、人生を変えた出会いがあった。医療機関向けのセミナーで、当時はまだ“ディズニーの神様”シリーズを出版していなかった鎌田洋さん(ヴィジョナリー・ジャパン代表取締役社長)の講演を聴く機会に恵まれた。人の話を聴いて、初めて“泣く”という経験をした30歳前後の私は、「自分も鎌田さんのようなスピーカーになる」と決意し、その後の数年間は年間100人以上の講演やプレゼンを聴いて、人を引き付ける話し方の研究を深めた。


 鎌田さんは、東京ディズニーランドオープン時に、初代ナイトカストーディアル(夜間の清掃部門)・トレーナー兼エリアスーパーバイザーを務めた後、オリエンタルランド全スタッフを指導、育成する重責を担うなど、顧客リピート率98%を誇る“夢の国”でホスピタリティを極めた人物である。


 私の人生を変えてくれた鎌田さんが、9月4日に都内で開催された「医療機関アワード」で基調講演してくれた。「してくれた」と書いたのは、同イベントを主催した一般社団法人 日本医療ホスピタリティ協会の理事を務めているからだ。


 講演の中で鎌田さんは、CS成功企業の必須要件に▼理念・哲学を伝える(ミッション「想い」をフロントラインにまで伝え、理解させる)▼「仕組み」を整える(「想い」が浸透するシステムを考える)▼「想い」を具現化する(理念を行動に落とし込む)▼ブランドを想起する(自分たちのサービス、組織に誇りが持てるようになる)▼顧客の期待を超える(潜在的なウォンツを察知し、提案する)▼個人の主体性を喚起する(個々人が主体性を発揮する文化を創る)——の6つを挙げるなど、すべての企業の課題であるリピート率を高める考え方を教えてくれた。


 しかし、CS成功企業の必須要件よりも私の心に刺さったのは、最後に述べた言葉だった。「ありがとう」の数だけ幸せになれる。MRの“3大栄養素”(「情報」「仲間」「ありがとうのフィードバック」)の中にも「ありがとう」がある。


 私が約10年前から言い続けている「シェア・オブ・マインド」(SOM)も、「ありがとう」を受け取るための考え方だ。このたび、SOMチェックシートを改めてブログに公開した。チェックボックスをクリックしていくと、あなたのSOM度がわかるようになっている。チェックできる項目が多いMRは、得意先から多くの「ありがとう」を受け取っているだろう。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。