製薬企業や医薬品卸が地域包括ケアに貢献するには、4つのレベルがある。


【レベル1】は、「地域包括ケアって何なんだろうね?」と何のデータも参照せず、現場の声を聞かずに想像だけでやりとりしているレベルである。


【レベル2】は、地域包括ケアに関する書物などを読み、エリアごとのデータを分析し、仮説を立てて現場の声を聞くレベルだ。「地域包括ケアって、そういうことだったのかぁ」と、地域包括ケアの姿をつかみかけている。


【レベル3】は、レベル2で立てた仮説をもとにエリア・マーケティングを実践していくレベルだ。


 そして、最後の【レベル4】が地域包括ケアの多職種連携の一員となり、地域包括ケアそのものになるレベルである。


 このうち、最も重要になるのが【レベル2】の中で“仮説”を立てて現場の観察し、声を聞くことである。前回紹介した「医療機関アワード」(9月4日開催)では、元リッツ・カールトンの日本支社長を務めた高野登さん(人とホスピタリティ研究所所長)も基調講演してくれた。


 高野さんは、仮説を立てる力について「創造力を発揮して目の前の人に関心を持つこと」だと述べていた。高齢のお客様がタクシーに乗ってホテルに着いた。どうやら大きな荷物を持っている。


 高野さんによると、7割のドアマンは、お客様が自ら荷物を持ってタクシーから下車されるのを待っているだけだという。29%のドアマンは、お客様から下車する前に歩み寄って荷物を受け取る。残された1%のドアマンだけが「お荷物はそのままでどうぞ」と伝え、反対側のドアから荷物を取り出すそうだ。高齢者にとっては、車中で苦しい体制で荷物を移動させるのは苦痛が伴う。きっとつらいに違いないという「仮説」を持てるドアマンが、高いリピート率に貢献することができる。


 また、高野さんは「100のニーズに100のサービスで応えるだけでは、100-100=ゼロだ。言われたことしかやっていないのは“作業”に過ぎない。お客様が言葉にしていない、気づいていないニーズを提供するのが仕事だ」と力説していた。


 仮説を立てて、作業ではなく仕事をする。今のMRに最も求められていることだろう。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。