この夏、首都東京に初の女性都知事が生まれた。小池百合子氏である。与党の自民、公明両党が元岩手県知事の増田寛也氏を推し、民進、共産など野党はジャーナリストの鳥越俊太郎氏を統一候補として担いだ。小池氏は自民党の推薦を獲得できなかったことを逆手に取って勝負に出た。三つどもえの戦い。もっといえば、政党対政治家個人の戦いだった。


 2020年東京五輪・パラリンピック、首都直下の地震対策、保育所の待機児童問題、間近に迫った築地市場の移転、そして政治とカネの問題など都政には大きな課題が山積だ。あの都知事選から1カ月以上が経過したいま、新聞各紙の社説を検証しながら小池氏が大勝した理由をあらためて分析し、これからの東京と日本の将来について考えたい。


●組織に対する『個人の戦い』ぶりの演出が勝因


 新聞は小池新都知事の誕生をどう判断しているのか。選挙翌日の8月1日付朝刊各紙に掲載された社説を読み比べてみる。


 朝日新聞は「自民党の意向に逆らった末の勝利である」と評価し、小池氏が当選した理由を「都民の胸中には『組織の論理』に対する反発が色濃くあったはずだ。野党の統一候補選びにも分かりにくさがあった」と分析する。



 そのうえで「小池氏は、都民1人ひとりが主役だと唱えた訴えどおり、特定の組織に目を向ける旧来の政治から、都民全体を考える都政への変革を進めてほしい」と主張する。


 「都民が主役」「旧来の政治からの変革」「都民全体の都政」…。どの言葉も革新的で格好良く、最高のスローガンに思える。社説の見出しも「都民本位の改革実行を」と付けられている。都政は都民のためにあり、それを実現するのが都知事。これは当然のことではないか。皮肉を込めていえば、理想主義の朝日が好む言葉の羅列でもある。


 次に読売新聞の社説。「小池氏は地道に重責全うせよ」との見出しを掲げ、冒頭で「都知事は2代続けて、政治とカネの問題で任期途中で辞任しているだけに、都政の安定回復が喫緊の課題だ」と指摘する。


 勝因については「所属する自民党の推薦が得られなかったことを逆手に取り、組織に対する『個人の戦い』を演出した。無党派層の支持も得て、地滑り的大勝利を収めた」と解説している。朝日と同じ分析である。


 ただ「自民党の意向に逆らった末の勝利」と断定する朝日と違い、読売は「演出」という言葉を使って冷静に分析している。


 さらに「立候補の際、小池氏は都議会自民党との対決を強調した。議場での真剣な議論を通じ、都民本位の政治を競うなら歓迎だ。しかし、またコップの中の争いになるなら、ごめんこうむりたい」とちゃかす朝日に対し、読売は「小池氏は都議会や都連の密室性も批判し続けた。自民党の一部有力議員に意思決定の権限が集中しているとして、『開かれた都政を実現する』などと訴えた。都議会は重く受け止めねばならない」と都議会側にも注文している。


 小池氏の勝因については朝日と読売以外の新聞の社説も「組織に対する個人の戦い」の成功を挙げている。


 たとえば毎日新聞。「政党の推薦が決め手とならない都知事選の特徴は今回も変わらなかった」などと述べたうえで、「小池氏を押し上げたのは政治とカネの問題で混乱する都政の閉塞感を打破する期待だろう」と分析する。社説の書き出しの部分でも「知名度や国政での経験への評価に加え、都政に変化を求める有権者の期待感の表れだろう」と指摘している。


●税金と政治資金、政治とカネの問題の解決を


 猪瀬直樹氏、舛添要一氏と2代続いた失脚の原因は、政治とカネの問題だった。小池氏の前に積み上がった多くの問題のなかでもこのこの政治とカネの問題をきちんと解決しておかなければ、すべての政策が台無しになるのはいうまでもない。


 各新聞の中で唯一、1本書きの長い社説を掲載した東京新聞は「愚は繰り返すまい」との見出しを立ててこう訴えている。


「トップの愚行による交代劇はうんざりだ。国と地方を問わず、政治家の金銭感覚はまひしがちだ。きちんと歯止めをかけねばならない」


「ひとつは、税金の無駄遣いの排除である。海外出張や公用車利用の在り方を含めて、幅広い経費節約の仕組みが欠かせない」


「もうひとつ。政治家個人に託される政治資金の不適切な流用の防止である。首都として全国に模範を示すべく、条例に基づく厳しい独自ルールを導入してはどうか。カネの流れや使途と成果について情報公開と説明責任を課す。トップとしての気概と指導力が問われよう」


 なるほど、その通りである。都民の信頼を回復し、都政そのものを安定させるには、政治が使うカネを透明にするしかない。何せ、2代に続けてカネの問題で不祥事を起こし、退任しているのだから、である。


 かつて小池氏は自民党の総裁選で5候補中3位に入ったことがあった。初の女性首相に最も近い政治家ともいわれた。


 そんな小池氏はこの東京を、日本の国を、どうしていきたいのか。5年前の東日本大震災の発生から4カ月ほどたったとき、東京・永田町の議員会館を訪ね、小池氏に直接インタビューしたことがある。


 そのインタビューの中で「国のリーダーはどうあるべきなのか」と聞くと、小池氏は「国民はこの人だったら自分の命や日本は安全だろうかを真剣に考えてリーダーを選んできたでしょうか。平時だけではなく、東日本大震災のような有事の際に活躍できる人物こそ国のリーダーです」ときっぱりと答えていたのを覚えている。


 選挙戦で組織に対抗する力強い「個人の戦い」ぶりを見せた小池氏らしい発言である。都民はこうした力強い政治家、小池百合子を選んだ。逆にいえば、日本は力強いリーダーに欠けていることになる。いま大きな問題を多く抱える都政は、有事といっても過言ではない。この日本をどう守るか。まさに小池氏の活躍のときではないだろうか。(沙鷗一歩)