歯科医の先生はどれくらいいらっしゃいますか——。週末に都内で開催されたビジネスプロデューサー道幸武久さんのセミナーに参加した“意識の高いビジネスパーソン”のうち、約3分の1が手を挙げた。


「コンビニより多い」「5人に1人は年収300万円以下」と言われる競争が激しい歯科業界の中で、ビジネスマインドが低いのは致命的だ。この日のテーマは“チーム(部下)マネジメント”だった。医科診療所や薬局も同様だが、逃げ場のない空間では、人間関係の悪化は、そのまま経営悪化につながる。


 それなのに、学生時代に医療従事者のタマゴが経営や人材マネジメントを学ぶ機会は限られている。長年かけて専門分野を極めても、勝敗(仕事における充足度)を分けるのは専門とは別のところにあるというのが、医療業界の難しいところだ。


 専門医向けに“専門外”の講演会・説明会を開催したら、予想をはるかに超えた参加者が集まった——。MRであるあなたにもこんな経験があるだろう。「専門医に対しては、知識力の高い専門MRが担当するべきだ」「いや、すべての製品を担当するジェネラルMRのほうが日本には合っている」……長年議論されてきたテーマだが、専門医ほど、その周囲をとりまく“専門外”の課題に直面しているため、特定疾患とその薬物治療の知識だけで武装されたMRとは、距離感を感じているのが実情ではないだろうか。医師に会えるMRと会えないMRの違いも、ここにあると思う。


 この思いは、9月23日に開催されたユート・ブレーンセミナー「糖尿病専門医が語る 糖尿病治療の最前線と製薬企業・MRへの提言」に参加した後に、より一層強くなった。


 現在の糖尿病治療のアプローチは▼患者の治療への意欲▼併存疾患▼罹患期間▼平均余命▼個別の血管合併症▼社会的リソースや支援——などを考慮して行うのに、MRが見ている世界はクスリ中心だと専門医は語った。このことは、前回書いたOne Patient Detailingの重要性が強調されただけなく、企業サイドが「専門」や「領域制」の“定義”を変える必要があることを感じさせる。


 専門医を満足させるには、どこまでの範囲の知識が求められるのか。MRを再定義するには、この問いへの答えを避けられない。



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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。