もっとMRに患者志向のディテーリングをしてもらうには、どうすればよいのか——。熟考して出た答えがOne Patient Detailing(OPD:ある疾患における、自社製品に限らない個々の症例に基づくディテーリング)というキーワードを医薬品業界に定着させることだった。


 5年前にOPDの解説書として『優秀なMRはどのようなディテーリングをしているのか?』を出版し、目論見どおりにOPDは医薬品業界の中で共通言語になり、営業所の壁に“提案型営業OPD”というメッセージを貼る企業まで現れた。


 そして2016年からOPDは新たなステージを迎えることになった。16年度の診療報酬改定においてリハビリテーション関連のADL維持向上等体制加算の新たな算定要件に「必要に応じて他の職種と共同し、患者が再び実現したいと願っている活動や社会参加等について、その優先順位とともに把握し、多職種のカンファレンスで共有していること」という文言が追加されたのだ。“患者が再び実現したいと願っている活動や社会参加等の優先順位”——。これが患者満足の定義だ!という厚生労働省の思いが、この文言から伝わってくる。


 このようなオーダーメイドの治療が当たり前になれば、ますますOPDがやりやすくなる。しかし、残念なことにユート・ブレーンがIMSに買収され、『優秀なMRはどのようなディテーリングをしているのか?』が発禁扱いになってしまったので、現在は木村情報技術から年内発売を目指して新たなOPD本の編集を進めているところだ。


 新OPD本発売の前に、頭の片隅に入れておいてほしいキーワードがある。ICF(国際生活機能分類)である。実は、前出のADL維持向上加算の算定要件は、このICFの考えを導入している。ICFとは、生活機能と環境・個人因子を相互的に捉えながら健康状態を診ていく考え方だ。


 仙台往診クリニックの川島孝一郎院長の言葉を借りれば、「身体がどのように変化しても、周囲との関係性の中で調和すればそれで健康。健康が100%で死が0%という“ICD的”な考え方ではなく、我われはICFの統合された全体としての身体論を考慮すべき。バーボンが大好きで毎日胃瘻から晩酌している患者さんもいる」というように、機能障害があって活動が制限されている状況を、医療人のサポートや福祉器具の活用、建物のバリアフリー化により制限や制約が少なくして、患者さんの“健康状態”を上昇させていく考え方だ。


 脳梗塞になって歩行が難しくなったから趣味の映画鑑賞をあきらめるのではなく、その患者さんが毎月、映画を観られるようにするには、どのようなサポートが必要なのか、多職種連携で支えていくのがICFだ。その中で、医薬品はどのような役割を果たすのか。


 ICFを意識した活動を心がければ、自然にOPDができるようになる。 


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。