豊洲の盛り土問題のおかげで、都知事選の時以上に小池百合子知事の顔をメディアで見かけない日がなくなったが、驚いたのは、誰が盛り土をしないと決定したのか、わからないということだ。


 この盛り土問題により、開催まであと1400日を切った東京五輪の会場まで変更しなければならない事態にまで発展しそうだ。


 五輪と言えば、アスリートは4年に1度しか金メダルを獲得するチャンスがないが、我われビジネスパーソンは、毎日、“金メダル”を獲得するチャンスがある。それは、顧客からの「ありがとう」の言葉であったり、患者や地域に貢献できているといった充足感だ。今日の面談結果を、金・銀・銅・入賞・予選落ちレベルと分類してもいいかもしれない。いずれにしても、“リベンジ”のチャンスが4年後というのは、あまりにも長すぎる。


 しかし、「4年に1度」という区切りがアスリートを成長させるきっかけになっていると思う。それは、我われの「四半期」などとは質の違う区切りだろう。


 米フロリダ州立大学心理学部のアンダース・エリクソン教授らの近著『超一流になるのは才能か努力か?』には、次のような記述がある。


「意外にも年長の医師は、若手の医師と比べて医療の知識に乏しく、適切な治療の提供能力にも欠けていることがわかっている。楽にこなせる範囲で満足し、同じことを繰り返していては、一度身につけたスキルも徐々に落ちてしまうのだ」


 20年の経験がある医師や薬剤師、看護師、そしてMRは、5年しか経験がない人たちよりも劣っている可能性が高いというわけだ。この指摘に大きく頷く読者が多いのではないだろうか。


 なぜ、経験が成長に結びつかないのか。それは、コンフォートゾーン(ストレスの少ない心地のいい場所)から抜け出さずに経験を積み重ねるからだ。5年目までの経験を6年目以降に繰り返すだけでは、成長とは逆の衰退に向かう。プロの衰退問題の責任は誰にあるのか? もちろん、組織や上司の問題もあるだろうが、9割は本人の責任だ。


 コンフォートゾーンから抜け出さないベテランは、その組織を去る運命が待ち構えている。コンフォートゾーンを抜け出すには、できない(やっていない)ことに挑戦することだ。東京五輪までにチャレンジしたい目標を設定しよう。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。