前回書きそびれてしまったが、大型連休前に読んだ合併号のなかに気になる記事があった。週刊朝日で長らく続いていたジャーナリスト・津田大介氏のコラム、「ウェブの見方、紙の味方」の最終回である。タイトルは『ウェブ時代だからこそ問う紙媒体の存在意義』。この文で津田氏は、今日ではソーシャルメディアがマスメディア以上の影響力を持つようになったとし、もはやフェイクニュースやヘイト書き込みなど、ネットに氾濫する《虚偽情報を“根治”することはできない》という見方を示している。


 せめてもの対策として、さまざまな対症療法を組み合わせ《症状を軽くする》べきだと氏は訴え、その作業を《良質な情報(良貨)でジャンクな情報(悪貨)を駆逐する》という古い箴言をひねって提案する。ネットに押されじり貧の紙媒体にこそ、“良貨”としての役割が問われているのだと。


 とまぁ、コラムの主旨そのものは常識的なものなのだが、何より私の目を引いたのは、最後の1段落。《週刊朝日は次号からのリニューアルで、対象読者をより高年齢層に設定するそうだ。紙媒体をめぐる経済状況が厳しい折、やむを得ない判断なのだろうが、その方針で雑誌をつくれば10年後に読者が大幅に減ることは避けようがない》。思わずため息の出るやるせない知らせだった。


 で、その「次号」、つまり今週の最新号を眺めると、津田氏が予告したような「リニューアル」があったのかどうか、ぱっと見ではわからない。巻頭から10ページは“令和代替わり”の皇室大特集。続くワイド特集のあと、『人工透析は自宅でできる!』という医療・健康ネタがあり、さまざまな連載やインタビューコーナー、『感情の老化を防ぐ5つの生活習慣』『「疲労回復」の超基本』といった記事のあと、お馴染みの“死に支度・終活ネタ”『7・1相続大改正徹底攻略ガイド』で締めくくっている。


 確かに取材モノ・社会派の時事ネタは、巻頭の皇室特集とワイドだけ、それ以外は「健康」と「終活」だ。次号から、さらに取材モノが縮小するならば、リニューアルはよりはっきり見えてくるだろう。言い換えれば、“「健康」「終活」記事だらけ”という特徴は、何もこの号で始まったことではない。年初からずっとこの調子だ。ここにプラスして「現代医療を疑え」と“煽り健康記事”のニュアンスが強まったり、“シルバーセックス特集”が加わったりすれば、週刊朝日もポスト・現代の路線になる。


 個人的な感覚で言うならば、私自身シルバーエイジの一歩手前だが、この手の雑誌をわざわざ購入する消費者心理はわからない。相続や介護の情報が欲しければ、ちゃんとした専門書を入手するし、健康の知識を得る手段もまた同じだ。ヌードが見たければ、ネットにはよりどぎつい無料画像が溢れている。


 発行者側の事情を推察するならば、こうした誌面はさほど伸びなくても“まぁまぁの部数安定”が見込めるのだろう。何よりも、社会派ネタを掘るよりもはるかに“安あがり”にページを埋められる。そのメリットに抗しがたい魅力があるに違いない。


 となればもう、取材ネタで勝負する雑誌は、文春・新潮だけ。サンデー毎日には、社会派・硬派ネタを重視する心意気があるものの、名のある執筆者のコラム・評論が中心で、事件事故に飛び出す瞬発力、粘り強く現場に潜り込む発掘力に難点がある。結局はここでも“取材費を賄えない”ことがネックなのだ。ネットの“ジャンク情報”との差別化は、足で稼ぐ愚直な取材にこそポイントがあるのだが、その予算が枯渇する現状は、本当に危機的だ。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。