野党第1党の民進党は9月15日、その代表選で女性の蓮舫氏を党の顔に選んだ。蓮舫氏を圧勝させたのは、東京都の小池百合子知事や米国のヒラリー大統領候補ら女性リーダーへの大きな期待があるからだろう。


 蓮舫氏は当選後のあいさつで「批判ではなく提案。私たちの提案力で、選択して頂ける政党にしたい。いばらの道でも登り続け、政権を担っていきたい」と強調した。民主党、民進党とも安倍晋三首相から「批判だけに明け暮れ、対案を示さない」との厳しい指摘を受け続けたからだ。つまり蓮舫氏は安倍首相の批判に対し、「政権の受け皿がある」との意気込みを見せたのである。


 しかしながら、民進党内からは蓮「舫氏は言うことが二転三転する」との声もあり、蓮舫氏の手腕に大きな疑問を抱く党員も少なくない。果たして蓮舫氏は野党第1党の代表としてその責任を果たせるのだろうか。


●民進党はゴジラと戦えるのか


 今年の夏に公開され、大きな興業収入を上げた映画「シン・ゴジラ」。見た方も多いと思うが、冒頭から始まるゴジラの破壊シーンはかなりの迫力で、まるで東京や横浜、鎌倉の街の本物のビルや高速道路、鉄道が次々と壊されていくかのよな錯覚に陥るほどである。そしてそれ以上に現実味を帯びていたのが、映画の中の日本政府の混乱ぶりだった。


 最初、政府は巨大生物の存在を認めず、海底火山の噴火によって東京湾アクアラインのトンネル崩落事故が起きたと判断する。テレビの映像に巨大生物の尻尾が映し出されるまで巨大生物の存在を認めない。巨大生物は多摩川河口から遡上し、蒲田に上陸した後、東京湾に姿を消す。駆逐の方針を立てた政府の対応は失敗に終わる。


 再度の襲来に備え、政府は「巨大不明生物特設災害対策本部」を設置する。本部名の長さにリアリティーがある。数日後に2倍のサイズに進化したゴジラが、今度は鎌倉から再上陸して暴れ回る。口や背中から強い光線を発して自衛隊や米軍の戦闘機、爆撃機を破壊する。政府の対応は後手に回るばかりで、首相もヘリコプターで脱出途中に光線にやられて死亡する。


「シン・ゴジラ」はシーンごとに登場人物の会話を多く入れ、こんなストーリが目まぐるしく展開されるのだが、映画の中の政府は、5年前の東日本大震災による福島原発事故の対応に右往左往してパニックに陥る菅直人内閣を想起させる。この混乱ぶりによって民進党の前身の民主党の化けの皮がはがれたといっても過言ではない。


 民主党は寄り合い所帯だからこそ、福島原発事故で大混乱した。後進の民進党も大差ない。そんな民進党を蓮舫氏はどう率いていくのか。課題は多い。


 たとえば民進党の立て直し。「自民1強」の打破に向けて安倍政権との対立軸をどうするのか。党首としての発言力が期待されるところである。党の立て直しの他にも、「野党共闘」「憲法改正」「安全保障関連法案」「TPP(環太平洋経済連携協定)」などの課題がある。そのうえ、代表選で噴き出した蓮舫自身の「二重国籍」問題も大きく影を落としている。


●民進党に自覚迫る新聞の社説


 ここでいつものように蓮舫氏が代表に選出された翌日(9月16日)の新聞各紙の社説を読み比べてみよう。


 まずは朝日新聞の社説。「蓮舫氏のもとに結束を」という見出しを立て、「知名度の高い蓮舫氏を党の顔にと幅広い期待が集まったのだろう。過去の失敗から何を学び、どのように政権戦略を描くのか。新代表の真価が問われるのは、まさにこれからだ」などと好意的ではある。


 さらに「ただでさえ強大な安倍政権に対し、野党がバラバラでは相手にならない。野党の連携は政権へのチェック機能を強め、政権の受け皿をつくるために欠かさない。それを主導するのは野党題意第1党の責任だ」との注文も忘れない。


 一方、毎日新聞は「政権を担い得る政党への脱皮は容易ではない。新体制の前途を危ぶむ声は党内にもある。船出の厳しさを十分に自覚して、まずは党内の結束に全力を注ぐべきだ」と訴える。通常、朝日と似た路線を取ることが多い毎日にしては蓮舫氏に厳しい。


 さらに「二重国籍問題」をこの社説の半分を割いて取り上げ、こう手厳しく論じている。


「『二重国籍』でも法律上は被選挙権や閣僚の適格性を失うわけではない。外交関係がない日台間に関して特殊な事情があるとはいえ、日本の国籍法はどちらかの籍を選ぶよう定めている。きちんと放棄手続きを取っておくべきだった」


「それ以上に問題なのは、当初は『生まれたときから日本人』と答えていたように、国籍という基本的な問題で説明がぶれたことだ。野党第1党の党首としての資質にすら疑問符がつく軽率な対応である」


 読売新聞は「党再生への先頭に立てるのか」(見出し)とこれまでの読売路線を引く。産経新聞は毎日同様に社説の大半で「二重国籍問題」を批判し、「国会議員が日本国籍者に限られるのは当たり前だ」と指摘する。これも産経の真骨頂なのだろうが、客観性に欠けている。


 さて日本の政党政治はどうあるべきか。持論ではあるが、米国の民主党と共和党のような2大政党が、交代で政権を取って国家を維持していくのが望ましいと思う。政治もバランスが大切だからだ。だからこそ、当初は民主党に期待した。だが、鳩山内閣、菅内閣…と体たらく過ぎた。今度こそ、民進党が野党第1党の責任を果たし、日本の未来を築いてほしい。(沙鷗一歩)