健康保険組合連合会の幸野庄司理事による「調剤権」発言が日本医師会の中川俊男副会長の怒りを買ってしまったようだ。おかげで、2人が委員を務める10月19日の中医協総会が険悪なムードになったという。


 筆者は、以前から医師による「処方権」に加え、後発医薬品の使用促進で生まれた薬剤師による「調剤権」、そして何よりも重要なのは、患者の「服用権」であると指摘してきた。冒頭の議論には、「服用権」が完全に抜け落ちているような気がする。


 そんな中、QLifeは10月11日に「薬剤師からみた残薬問題調査報告書」の内容を発表した。調査は調剤薬局に勤務している薬剤師を対象にインターネットで調査した。有効回収数は300人。


 それによると、残薬の原因では、「患者の服用忘れ(漏れ)」が79%を筆頭に、「患者の不安や自己判断による、意図的な服用減らしや早期終了」(48.3%)、「医師の処方量・処方日数が必要」(46.7%)、「複数の処方医による同種剤の重複処方」(38.0%)が上位を占めた。


 残薬を解消するため薬剤師ができることには、▼医師へのフィードバックや提案▼処方日数の短縮や、分割調剤▼服用手間・回数負担を減らす▼患者が残薬を打ち明けられる環境づくり▼患者への聞き取り強化▼患者のアドヒアランス意識を向上——などが挙げられ、製薬企業が薬剤師に支援できることには、「服薬支援ツールの充実。 どの薬にどのような支援ツールがあるかを積極的に連絡してほしい」などの意見があった。


「飲まない」という「服用権」に対して解決策を提示できるのは、「調剤権」を持つ薬剤師の影響が大きいが、「調剤権」を「処方権」と同じ目線で論じたことは、今後の診療(調剤)報酬改定議論にマイナスの影響を与えそうだ。


 騒動のおかげで今回の報道ではほとんど触れられることはなかったが、19日の中医協総会のサイトをみると、「主な施設基準の届出状況等」(15年7月1日現在)の資料があった。


 薬剤師関連の項目をピックアップしてみると、下記のように14年から順調に伸びているものが目立つ。


・病棟薬剤業務実施加算:1189件→1304件

・がん患者指導管理料3:512病院→605病院

・外来緩和ケア管理料:197病院→213病院

・保険薬局の無菌製剤処理加算:839薬局→1138薬局

・在宅患者訪問薬剤管理指導料:4万60955薬局→4万7262薬局

・在宅患者調剤加算:6582薬局→8146薬局


「調剤権」は全体的に与えられるものではなく、個々の薬剤師や薬局、薬剤部の取り組みにより個別に与えられていくべきものであろう。


 言うまでもないが、製薬企業は“3つの権利”それぞれに対するマーケティング戦略を展開しなければならない。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。