年を取ったせいか、アナウンサーが読むニュース原稿の表現に“引っかかり”を感じることが増えてきた。最近では、横浜市の病院で高齢の入院患者が次々と薬物中毒を起こし、殺害された事件の報道に、苛立ちを覚えている。


 一字一句そのままではいないが、この事件の報道で、NHKラジオのニュース原稿は「横浜市の病院で高齢の入院患者らに薬物が混入された事件で〜」といった決まり文句から始まる。その度に私は(ラジオニュースは車の運転中に聞くことが多いのだが)、「患者に薬物を混入?」と頭の中で繰り返し、舌打ちをしたい気分になる。


 言うまでもなく「混入」は、「AにBが混入する」「AにBを混入する」などと、メインの物質に異質なものが混ざったこと、混ぜたことを示す。NHKニュースを文字通り解釈するならば、ミキサーか何かで患者を液状にすり潰し、その中に薬物を混ぜ合わせた話になってしまう。そうでもしなければ、薬物は人体と混ざりはしない。


 当然そんなはずもなく、ニュースには途中から「点滴に薬物を混入」という言葉が現れる。細かいことを言えば、これだって本当は「点滴液」とすべきなのだろうが、そこまでは言わない。とにかく、リードで短縮した表現にしたいなら、「混入」でなく「注入」など別の語を選べばいいだけのことだ。何人ものチェックをくぐり抜け、こんなおかしな表現が連日、放送されることに、NHKの日本語力も落ちたものだ、と思わざるを得ない。


 この事件、すでに各誌で続報は出ているが、内容はなかなか深まらない。病院の内部犯行だった気配が濃厚で、雑誌記事もその線で書かれているのだが、隔靴掻痒だ。今春の文春『「四階の呪い」リストカット、盗難事件、逃亡…… 横浜点滴殺人 元勤務看護士が告白』も同様で、事件のあったフロアの看護師の間でドロドロした確執があったことを伝えるにとどまっている。


「この中に犯人はいる」という2時間ドラマさながらの犯罪は、現実には滅多にお目にかかれない。犯人は事件発覚後もボロを出すことなく、現在も職場にいるのだろう。被害者の存在や遺族の心情を思えば、興味本位に騒ぐのは不謹慎なのだが、それでもつい、推理ドラマを見るような感覚に陥ってしまう自分がいる。


 今春は文春と新潮がともに、慶応大学で毎年ミスコンを主催する有名サークルで起きた集団強姦事件を取り上げている。古くは十数年前の早大サークル「スーパーフリー」の乱行、最近では東大生による集団強制わいせつを思い起こさせる事件だが、こうした有名大学のチャラチャラした連中による世間を舐め切った犯罪にはムカムカする。


 事件の当事者ではないようだが、問題サークルの学生は文春の取材を受け、笑いながら集団暴行の写メを取り出して、「芸術作品っすよ」「いくらで買いますか?」「買うなら今!」と売り込んだらしい。吐き気を催すような話だが、大学は被害女性や保護者の訴えを聞きながら、強姦した学生を処分せず、未成年飲酒強要だけを公表して、サークルの解散とミス慶応の中止を決めたという。


 マスコミともつながりのある有名サークルということで、それが理由なのかもしれないが、あるニュースサイトによれば、ワイドショー報道は「飲酒強要によるミス慶応の中止」という第一報は取り上げているのに、集団強姦事件という事件の真相がわかると、報道をピタッとやめてしまったという。事件そのものに加えて周辺の学生、大学、メディアなど、この話にまつわる関係者の対応何もかもが、本当に不愉快極まりない。


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三山喬(みやまたかし) 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。