先週、都内で開催された「医療者と製薬企業の対等な付き合い方」というイベントに参加した。


 参加者同士のワークのテーマに「MRは必要か?」というものがあり、8人ほどのグループで意見を出し合った。


 私は「“情報虫歯”(著名なコンサルタントの阪本啓一さんに教えていただいた言葉)を治すためにMRは必要だと思う」と発言した。医師に限らず、人は自分の興味・関心をベースに情報を探し、人と接する。例えば、私は書店に行くと「ビジネス」と「心理学」のコーナーに寄るが「料理」や「アート」のコーナーに立ち寄らない。しかし、「料理」や「アート」のコーナーに、今の自分の課題を解決できるヒントが隠された作品があるかもしれない。実際、私がユート・ブレーン時代につくった書籍『優秀なMRはどのようなディテーリングをしているのか?』(絶版)は、“レシピ本”からヒントを得たものだ。


 医師や薬剤師の興味のアンテナに引っかからないけれども、彼らを頼りにしている患者さんには役立つ情報をMRが提供することで“情報虫歯”を治してあげる。その役割がMRにある。


 私以外のメンバーからは「情報を調べる時間が節約できる」「MRから直接情報を提供されることで印象に残る」「いろんなMRから情報を得ることで取捨選択が行いやすくなる」などの意見が挙げられた。


 一方、「MRは不要」という意見には、「MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)でいい」「安全性速報(ブルーレター)の情報を数日後に持ってくるようなMRは必要ない」(医師)という声が挙がっていた。


 イベント主催者のひとりである南郷栄秀医師(東京北医療センター総合診療科医長)は、以前から「EBM実践の4つの輪」を提唱している。


 4つの輪とは、▼エビデンス(Best research evidence)▼患者の病状と周囲を取り巻く環境(Clinical state and circumstances)▼患者の好みと行動(Patient's preference and action)▼医療者の臨床体験(Clinical expertise)の4つをもとに患者さんとともに診療行動を決定することであり、この4つの輪がEBMの実践にもっとも重要なステップであると指摘している。


 医師はエビデンスと目の前の患者さんの間にあるギャップに、日々頭を悩ませている。医師や患者さんの悩みに寄り添えるMRであれば、「不要」と言われることはないだろう。



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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。