ネット辞書によると、「特区」は「民間事業者や地方公共団体による経済活動や事業を活性化させたり、新たな産業を創出したりするため、国が行う規制を緩和するなどの特例措置が適用される特定の地域」と書かれている。

 

 中国を経済大国に発展させた?小平が共産主義社会に資本主義を導入した手法が「経済特区」だった。沿岸部を経済特区に指定し、地域限定で思い切った規制緩和と外資導入を進めたのである。

 

 一方、日本でも2000年代から「特区」の名を冠した政策が進められており、小泉純一郎政権期に「構造改革特区」、民主党政権期に「総合特区」がそれぞれスタートした。さらに、現在は国際競争力の強化などを目指した「国家戦略特区」が推進され、規制改革項目として医療関係でも保険外療養の取り扱いに関する規制緩和が含まれている。

 

 しかし、これだけ乱立する特区がどこまで意味があるのだろうか。各制度の概要や概要などを見つつ、その意味を再考したい。

 

◇  構造改革特区、総合特区で計1,300件超


 日本国内に「特区」はいくつか存在するのだろうか。内閣府のホームページを見ると、構造改革特区は1,271件、総合特区は48件が既に認定されており、国家戦略特区は10地域が指定されている。さらに、東日本大震災の被災地域を対象とした「復興特区」、沖縄県で導入されている「経済金融活性化特区」「情報通信産業特区」がある。

 

 このうち、構造改革特区は小泉政権でスタートした枠組みである。当時は「官から民へ、国から地方へという構造改革を加速させるための一つの突破口」「地方の自助と自立の精神を尊重し、地方が自主性を持った知恵と工夫の競争」と位置付けられ、地域限定での規制緩和・撤廃を通じて規制に風穴を開けるとともに、特色ある地域づくりを目指した。

 

 具体的には、自治体や民間企業から規制緩和・撤廃の要望を募集。内閣官房と各省が調整し、緩和・撤廃する規制項目が決まると、自治体から認定申請を受け付けた。結局、スタート時点で臨時開庁手数料の軽減、営利企業やNPOの農地貸借、福祉有償ボランティア輸送などの規制緩和・撤廃が実現し、2003年4月に57件の計画が認定された。その後も認定申請の募集と自治体認定が続いており、今年6月までに40回を数える。

 

 しかし、構造改革特区は二律背反を抱えていた。地域限定で規制を緩和・撤廃した後、特に弊害が見当たらない場合、一定期間後に規制を全国拡大する枠組みを持っており、▽福祉有償ボランティア輸送、▽営利企業やNPOの農地貸借、▽公立小中学校教職員の市町村採用—などの規制特例が全国化した。

 

 こうなると、認定地域は構造改革特区を「卒業」することになり、規制が緩和・撤廃された状態は「地域限定」ではなくなるため、特色ある地域づくりを阻害する。確かに今でも地酒の製造販売を認める「どぶろく特区」などいくつかの規制特例は全国拡大されていないが、構造改革特区が一時のブームに終わった背景として、この二律背反が挙げられる。

 

◇  総合特区は短命に


 続いて誕生したのが総合特区の枠組みである。これは地域限定で規制を緩和・撤廃する点は構造改革特区と同じだが、いくつか違いがある。

 

 例えば、国際競争力の強化を目指す「国際戦略総合特区」と、地域経済の振興を促す「地域活性化総合特区」の2種類に区分されたほか、規制の改革に特化した構造改革特区と異なり、税制上の優遇措置や国の補助金、低利融資なども併せて講じられた。

 

 さらに、規制については国・地方が個別に協議し、オーダーメイドで規制を緩和・撤廃することとした。例えば、がん医療の発展や雇用促進などを目指す静岡県の「ふじのくに先端医療総合特区」では、国の金融上の支援措置に加えて、薬機法の医薬品などに関する広告規制の緩和という特例が講じられている。

 

 総合特区が制度化されたのは2011年6月。2012年2月の第1次認定では17件が認定されたが、2年近く新規認定は行われていない。

 

 現在、政府が推進しているのは国家戦略特区である。これは国が定めた規制改革を総合的、集中的に推進することを目指しており、首相を議長とする常設機関として「国家戦略特別区域諮問会議」(以下、諮問会議)を置くなど中央政府が前面に出ており、地域の創意工夫や自主性を重んじた過去2つの取り組みに比べると様相が異なる。

 

 さらに、自治体の計画を認定していた過去2つの取り組みと異なり、国際戦略特区としての地域を事前に指定。その区域内で規制改革、税制上の優遇措置、財政措置を講じつつ、自治体や民間企業の取り組みを支援する内容となっている。

 

 これまでに東京圏、関西圏に加えて、宮城県仙台市、同仙北市、新潟市、愛知県、兵庫県養父市、広島県・愛媛県今治市、福岡市・北九州市、沖縄県の10地域が指定され、計207事業を進めようとしている。例えば、東京圏では慶応大学病院や国立がん研究センターなどが保険外療養の特例を受けている。

 

 これとは別に、2011年3月の東日本大震災に対する支援策として、被災地に限定して規制を緩和・撤廃する「復興特区」も創設され、東日本大震災対処特別財政援助助成法に指定された227市町村で復興計画の策定に際して、医師配置基準などに関する特例が設けられている。さらに、在日米軍基地を抱える沖縄への経済振興策として、税制上の優遇措置を講じる「経済金融活性化特区」「情報通信産業特区」も設けられている。

 

 こう考えると、日本各地で「特区」が認定されていることになるが、誰も全体像を把握していないし、その効果が検証されているとは言い難い。

 

 国家戦略特区の成否はこれから問われるとはいえ、政治主導で様々な制度が建て増された結果、特区の乱立を招いていると言える。さらに、小出しに規制を緩和・撤廃する中央省庁の消極姿勢の表れと考えることもできるだろう。その結果、「改革」が進んでいるかのように見せる特区が雨後の筍のように乱立しているのである。こんなに特区が乱立している様子を見ると、流石の現実主義者、?小平も驚くのではないだろうか。

 

 読者の皆さんも以下のウエブサイトを通じて、お住まいの地域の「特区」探しをやったら如何だろうか。空虚な「改革ごっこ」が如何に続いているか感じられるかもしれない。

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丘山 源(おかやま げん)

 大手メディアで政策形成プロセスを長く取材。現在は研究職として、政策立案と制度運用の現場をウオッチしている。