15年の大村智・北里大学特別栄誉教授に続き、16年も2年連続で日本からノーベル生理学・医学賞の受賞者が誕生した。大隅良典・東京工業大学栄誉教授がその人だ。細胞の自食作用「オートファジー」の仕組みを解明したことが認められた。


 大隅教授については、ノーベル賞の有力候補者として名前を見かけたことがある程度で、恥ずかしながら“ノーマーク”だった。昨年の大村教授に続き、勉強不足を反省した次第。


 薬の関係者でノーベル賞候補として、よく名前が上がるのは、“世界で一番売れている薬”「スタチン」で知られる遠藤章・東京農工大学特別栄誉教授や、免疫抑制に関わるタンパク質「PD1」を発見した本庶佑・静岡県公立大学法人理事長・京都大学名誉教授ら。


 画期的な医薬品の誕生を通じて、社会への貢献度は十分すぎるほどである(スタチンの売上高はピークの00年代半ばには、合計3兆円くらいあったと記憶している)。


 彼らが毎年のように候補にあげられながら、なぜ今のところ受賞できていないのかを探るべく手に取ったのが、『医薬品とノーベル賞』だ。


 過去、医薬関連でノーベル賞が授与されたのは、合成抗菌薬の「プロントジル」を発見したゲルハルト・ドーマク、世界初の抗生物質「ペニシリン」を発見したアレクサンダー・フレミングら3人、結核の特効薬「ストレプトマイシン」を発見したセルマン・ワクスマン等々何人もいる。


 もっとも、〈1960年代以降、純然たる医薬の発見に対しては、なかなかノーベル賞が与えられなくなってきています〉という。


 それ以降の時代は〈人類史上かつてない速度で、優れた新薬が登場した時代といっていい〉。にもかかわらず、ノーベル賞が与えられない理由を、著者は〈医薬品というものの評価の揺らぎやすさが一因〉と推測する。その端的な例は、サリドマイド。安全な睡眠薬という評価から、手足の短い子どもが生まれる副作用がわかったことで、販売停止へ。その後、ハンセン病治療薬や多発性骨髄腫の治療薬として、再び使われるようになっている。


■まだまだいる有力候補


 では、どんな発見なら、ノーベル賞がもらえるのか。実は、直接的な医薬の発見というより〈新薬に結びつくような、生物学上の発見はいくつもノーベル賞を獲得しています〉という。その意味では、遠藤氏、本庶氏ともにまだまだ可能性はありそうだ。なお、本書では、エイズ治療薬の開発者で知られる満屋裕明・熊本大学医学部教授も〈資格十分〉として取り上げられている。


 ちなみに、冒頭書いたように、ノーベル生理学・医学賞の裏側を探るべく、タイトルにひかれて手に取ったのだが、本書でノーベル賞を扱う部分はごく一部。タイトルは少々「やり過ぎ」の感はある。


 しかし、医薬品の近代史や現状、取り巻く社会的な課題がコンパクトかつ、わかりやすくまとめられている。医薬品の世界を手っ取り早く知りたい人には、オススメの一冊だ。(鎌) 


<書籍データ>

医薬品とノーベル賞

佐藤健太郎著(角川新書800円+税)