台風15号は千葉県と伊豆諸島に甚大な被害をもたらした。なかでも千葉県では30万戸を超える停電が発生。高圧電線の鉄塔2基が倒壊したさまが象徴的にテレビで放映されたが、停電の主原因は電柱の倒壊だった。倒木や飛ばされてきたトタンなどによる電柱倒壊、電線切断などである。


 電気が止まれば、現代の生活は手も足も出ない。電灯はつかないし、エアコンも冷蔵庫も動かない。浄水場の設備が停止して蛇口をひねっても水が出ない。井戸があってもポンプが動かないから水を汲み上げられない。トイレも使えない。おまけに携帯電話も通じなくなるし、ガソリンスタンドでは給油できなくなる……。


 そんな惨状の一方、今回の停電事件は電力自由化が正しかったのかどうか、改めて考えさせてくれた。当初、新聞、テレビは停電の理由を鉄塔の倒壊と考えていた。が、日本の送配電網は送電鉄塔が1基や2基倒壊しても、電柱がしっかり確保されていれば、隣の送電網から電気を送り、各家庭に配電できるシステムなっている。こうした送配電システムを構築したのは中部電力の太田元社長が考案したシステムで、太田社長は世界の電力業界で“配電の神様”と言われている。日本の電力各社はこの送配電システムを取り入れている。


 実は、この送電線では容量の2分の1しか電気を送っていない。具体的に言えば、60万ボルトの送電容量を持つ高圧電線には30万ボルト分しか送電していない。今回のような事故が起こったとき、鉄塔を建て直すには1ヵ月以上かかり、その間、被災地は停電が続いてしまう。それを避けるために即座に別の送電線に容量いっぱいの電気を送り、半分は停電になっている地域に送れるようにしているのである。


 今回の大停電の原因は道路沿いの電柱の倒壊や倒木により電線が切断されたりしたことに起因する。電柱の中には上部に3本の電線が通っているものもあり、そこには1万ボルトの電気が送られ、電柱のトランスで100ボルト、200ボルトに電圧を下げて各家庭に配電している。この送配電を担う電柱が倒木で多数倒壊したりしたことで大規模停電になっていることがわかる。


 ところで、福島原発事故以後、電力の自由化が進められた。このとき太陽光発電や風力発電事業者が東電は「送電線を延長してくれない」「送電してくれない」と訴え、テレビでは経済産業省出身のコメンテーターが「東電の送電線は容量の半分しか使っていない。余っている容量を解放すれば新電力の電気を送れる」と盛んに主張したのを覚えているだろうか。もし、コメンテーターの言うとおり、送電線の容量の残り半分を新電力会社に開放していたら、今回のような大停電のとき、空き容量を使うことができなくなる。


 加えて、当時、マスコミは新電力会社向けに電線を引くべきだとしか考えていなかった。送電線、配電線には常日頃の保守点検が必要で、強風が吹けば、送電線が切れていないか、何かが引かがっていないか確認が必要だし、鉄塔に上り送電線を伝って損傷がないか点検する。ところが、電力自由化で発電と送電の分離が叫ばれた。電力会社は、この発送電分離に抵抗するため、送電部門を「東電パワーグリット」と社内カンパニーにした。しかし、形だけだとしても発送電分離にした結果、送電部門であるパワーグリット社に振り分けられる予算は減少。保守が疎かにされがちで今回の電気復旧に多少なりとも影響している。


 ひところ大騒ぎした電力自由化が効率化のための規制緩和だとしたら、今回のような大停電はいつでも起こりかねない。大停電を大騒ぎするだけでなく、公益事業は規制緩和すべきものと、すべきではないものとの見極め、さらに、規制緩和するには万一の場合の防御をどうするかまで考えなければならないことをよくよく示唆してくれている。(常)