週刊現代が先週、トランプの当選を“言い当てた”ことに触れたが、今週号は早速、『トランプ大統領誕生 当てたのは週刊現代と木村太郎だけ』と“ドヤ顔の記事”を載せている。と言っても、現代の取材力が秀でていたわけではまったくなく、たまたま2分の1の確率で“逆張り”したところ、当たってしまった、という話なのは言うまでもない。


 その辺は編集部も十二分にわかっていて、本文には逆にびっくりするほど“自慢話”がない。《本誌は前号で「トランプ勝利」を予言していたが、それよりもずっと前〜「トランプが勝つ」と断言し続けていた人物がいる》として、あとは1ページ、木村氏のインタビューが続くだけだ。「予測」でも「予見」でもなく、「予言」。当てずっぽうだったことを自ら認めてしまうような書きぶりが、何とも謙虚であり微笑ましい。


 特集全体のタイトルは現代が『トランプが世界経済をぶっ壊す』、ポストが『「トランプ大統領で本当によかった!」と大マジメに話す人たちの意見に耳を傾けてみた』などと各誌それぞれだが、中身は似たり寄ったりで代わり映えしない。株価の上昇、マスコミとエリートの敗北、日本への影響はどうなるのか、安倍首相とトランプは実は気が合う、年齢に似合わぬ絶倫ぶり……といった、どこかで聞いたような話ばかりだ。


 文春は特集のトップに『選挙期間中に安倍へ極秘メッセージ ホットラインは破産管財人』とする元TBS政治部記者山口敬之氏の記事を置いている。この山口氏は首相との“距離の近さ”で知られる人物で、その記事に“安倍首相寄り”のバイアスが強いことを割り引く必要はあるものの、情報量は豊富だ。“取材すら満足にしない記事”がはびこっている昨今、きちんと1次情報をとるスタンスそのものは、評価に値する。


 週刊新潮には『驚くことはない 民主主義が生み出した「トランプ現象」』という京都大名誉教授の佐伯啓思氏の寄稿が載っている。要は、民主主義などしょせんポピュリズムに過ぎず、民衆が正しい判断をするわけではない、という佐伯氏らしいシニカルな文章だ。ただ、この手の民主主義批判にも、私は食傷気味である。ならば誰がどうやって統治者を決めるのがベターか、という疑問に、この手の論者が答えることはない。


《「普通の人々」の不満をかきたてれば、票を集めることは決して不思議なことではありません》《民主主義は常に人々の不満を再生産するシステムなのです》と、佐伯氏は言う。だが私は、それでいいと思っている。有権者のほとんどは“より優れたリーダー”を見抜く見識など持ち合わせていない。それでももし不満を感じたら、その統治者を引きずり下ろすことはできる。システムとしては、それで十分だと思うのである。


 だからこそ、引きずり降ろされることに“抗おうとする”統治者、政権批判を封じ、治安維持の統制を強めようとする独裁者的なタイプを私は警戒する。悲しいかな世界的にその手の強権的リーダーが増えつつあり、日米も例外ではない、というのが私の印象だ。


 中森明菜のディナーショーの話題が、何誌かに載っていた。ショーの料金やスタイルなど“商魂”が揶揄されてはいるが、私は純粋に歌い手としての復活に嬉しさが湧く。彼女の生き様やキャラクターに関心はなく、アイドル時代にファンだったわけでもない。数年前、NHKの番組で20〜30年ぶりに聞いたその歌声に鳥肌の立つような感動を覚えた。ただ、それだけの理由だが、とにかくエールを送りたいと思う。 


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三山喬(みやまたかし) 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。