「若い女性 栄養不足で健康リスク増 厚労省調査」—こんな画面タイトルとともに、「20代と30代の女性では、痩せている人の割合が高く、エネルギーの摂取量が健康の維持に必要とされる量を下回っていることが厚生労働省の調査でわかりました。専門家は、健康や出産時のリスクになるため、食生活の見直しが必要だと指摘しています」というアナウンスが聞こえてきた。去る11月14日のNHKニュースだ。 


日本の変化を映す「国民健康・栄養調査」 


 情報源を調べると、同日に厚労省が発表した平成27年「国民健康・栄養調査」の結果概要だった。NHKは「厚生労働省は、国民の健康状態などを把握するため毎年アンケート調査を行っています」と伝えているが、そう聞いて一般の人が思い浮かべる簡易のアンケート調査とはかなり異なる。


 同調査は健康増進法第10条に基づいて毎年11月に実施されるもので、①身体状況調査、②栄養摂取状況調査、③生活習慣調査からなる。平成27年調査の対象は5,327世帯、②に回答したのは3,507世帯だった。 


 調査の起源は、第二次大戦後の食料危機の時代にまで遡る。諸外国からの緊急食料援助を受けるため、連合国最高司令部(GHQ)の命令で1945年12月に東京都内で栄養摂取と身体状況の調査が実施され、その後、全国規模に拡大された。食料不足の時代に始まり、飽食の時代を経て、栄養素の過剰と不足が混在する現在では、国民健康づくり対策や生活習慣病対策の立案・評価などの基礎資料とされている。


 今年発表された平成27年調査発表のポイントは、「若い世代ほど栄養バランスに課題」、「受動喫煙の機会は飲食店が最も高く4割強」、「1日の平均睡眠時間が6時間未満の割合が増加」、「地域でお互いに助け合っていると思う割合が増加」の4点だった。 


 日本人のエネルギー摂取量は、1950〜1970年に漸増したがその後は減少し、平成27年調査では、20〜60歳代男性で1日2,100〜2,200kcal程度、20〜60歳代女性で同1,650〜1,800kcal程度と、いずれも10年前より約200kcal少ない。ただし、70歳代では一貫して男性2,000kcal前後、女性1,600kcal前後で変化がない。主要な栄養素別の摂取量では、過去10年に炭水化物とたんぱく質が減少し、脂質は横ばいだ。 


栄養摂取状況や運動習慣、中高年は“優秀” 


 平成27年調査で栄養摂取状況、生活習慣のデータを世代別にみると、50歳代以上は“優秀”だ。


 主菜(ごはん、パン、麺類などの料理)、主菜(魚介類、肉類、卵類、大豆・大豆製品を主材料にした料理)、副菜(野菜類、海藻類、きのこ類を主材料にした料理)の3つを組み合わせて食べるのが1日2回以上であることが「ほとんど毎日」の人の割合は、50歳代以上で高い。20歳代では男女とも40%弱だが、女性は50歳代で約50%、60歳代以上は60%前後に増える。一方、男性は50歳代で約45%、60歳代で約50%、70歳以上で約60%だった。 


「健康日本21(第2次)」では、成人の1日あたりの野菜の平均摂取量の目標値を「350g以上」としているが、男女とも20歳代は100g以上不足しているのに対し、60歳代は約330gと目標達成に近づいていた。 


「運動習慣のある者(1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者)」の割合も、高齢者に軍配が上がる。男性は20〜64歳で25%弱に対し65歳以上は50%超、女性は同20%弱に対し40%弱と、いずれも高齢者が若年成人の2倍にのぼった。 


 世代間でみられた違いの要因までは発表されていないが、生活習慣病が顕在化していない20歳代、仕事や家庭の維持に追われる30〜40歳代に比べ、健康問題が現実となってきている50歳代はより健康を意識し、具体的な行動に移しているのかもしれない。 


進めたい日本の人間栄養学 


 特定保健用食品制度が創設された平成3(1991)年頃、ある専門家は「日本の栄養学は食物や栄養素単位の思考で、ヒトの体内に入ってからどうなるかの視点が乏しい」と嘆いていたが、四半世紀を経た現在ではEBN(エビデンスに基づく栄養学)が指向されている。例えば、5年に一度策定されている「日本人の食事摂取基準」(最新は2015年版)は、国民の健康の保持・増進および生活習慣病の予防と重症化予防を目的とし、医学系の各種ガイドラインと同様、疫学研究など蓄積されたエビデンスに基づいて、エネルギーおよび33種の栄養素について、摂取量の基準を設定している。 


 とはいえ、日本では食生活がヒトの健康にどう影響するかを幅広く探る「人間栄養学」の研究・教育体制は不十分との指摘もある。「あなたの体はあなたが食べた物でできている」というセリフをたまに耳にするが、食物に含まれる栄養素が明らかだったとしても、それがそのまま食べた人の体成分となって機能を発揮するわけではない。限られた知見を拡大解釈して“効能”を謳う、いわゆる健康食品の宣伝も後を絶たない。栄養と健康の関係に対する関心を国民の健康に結び付けることができるよう、栄養疫学等の研究を推進し、読み解く側のリテラシーを高めていく方策を考える必要がある(玲)。