以前にも書いたことがあるが、筆者は愛煙家として日々、肩身の狭い思いをして生きている。タバコを絶つ気持ちは十分にあるのだが、ものを書く仕事でパソコンの前で文章をひねり出す必要上、禁煙、という余計なストレスが加わると、仕事の効率が大幅に損なわれそうな気がするため、その実行は先送りにし続けている。


 体に染みついたタバコ臭さはもう、どうしようもないが、副流煙で迷惑をかけないよう、レストランや喫茶店で周囲に非喫煙者がいそうな場合には、喫煙が許される場合でもタバコは控えている。最近は飲み屋でも、吸いたくなれば中座して、喫煙スペースまで往復する習慣が身についた。


 だから分煙そのものには基本的に異論はない。だが、世の流れは一見、分煙の徹底を装いつつ、実は限られた喫煙所すらどんどん廃止して、事実上、喫煙者に禁煙を無理強いする方向へと向かっている。馬鹿みたいに高い税金を納めている身としては、その一部を完全に外気と遮断した喫煙所の整備費用に充ててほしい、と訴える権利はあるはずだと思うのだが、世の中の空気は「それよりもお前がタバコをやめろ」という圧力になっている。


 そんななか、厚労省は東京五輪に向け、さらなる「受動喫煙防止対策」に動き出すという。いったいどんなことになってしまうのか。そう心配していたら、週刊新潮にこんな記事が出た。『「建物の中は原則禁煙」!? 企業を脅迫する厚労省「原理主義」はいかがなものか』。それによれば、密閉した喫煙所の存在は認められるようだが、現在の多くの飲食店にあるような中途半端な分煙はダメになるらしい。前述したように、私自身はそれでも対応できそうだが、問題はそんな完璧な密閉空間を新設する費用もなく、結局はマッチ箱のような喫煙部屋すら持たない店が増えそうな気配がすることだ。


 新潮記事によれば、新プランのたたき台の公開ヒアリング会場では、厚労省健康課長が青年将校さながら、特急に喫煙車両を保持している近鉄の担当者を吊し上げたという。何ともたまらない気持ちになる。


 文春では政治評論家の元小泉首相秘書・飯島勲氏がコラムで『愛煙家イジメが酷すぎる』とやはり、厚労省に苦言を呈している。基本的に氏のコラムはマキャベリスティックな“永田町の論理”を正当化する傾向が強く、好きになれないが、今回だけは話は別である。《そこまで規制強化するなら、中途半端じゃなく、大麻みたいに禁止して、喫煙者は全員逮捕したらどうなの?》とブチ切れる氏の文章に、うんうん、と頷いている。


 安倍首相がトランプ氏との会談で「信頼できるリーダーという印象を抱いた」と述べたことの根拠を国会質問で問われ、「アメリカに2人の大統領が存在するということを示してはならない」という主旨のトランプ氏の発言から、「この人は現職(のオバマ)大統領に敬意を持っている」と感じたからだと説明した。


 文春のトップ記事でもジャーナリスト山口敬之氏が、より詳しく、その時の様子を報じている。だが、どうなのだろう。「まだ現職の大統領がいるから」というトランプ氏の言葉は、安倍首相に個別政策の言質を与えないエクスキューズに過ぎなかったのではないか。不用意な約束はしない、という姿勢は、就任前の立場では当然のことであり、結局は安倍首相の願いも空しく、会談からほどなく氏はTPP脱退を改めて表明した。一方で安倍首相からは「信頼できる」という評価を引き出すことに成功した。要は、トランプ氏に体よくはぐらかされただけだったような気もするのだ。


 文春の同じ号の匿名コラム『新聞不信』には、『“ノー天気”なトランプ会談記事』と銘打って、新聞各紙の会談報道への批判が載っている。《一回会っただけで信頼関係など築けるものなのか。各紙の記者は自分の胸に手を当てて考えて見たら自ずとわかるはずだ》とある。図らずも文春記事に対する皮肉にもなってしまっている。 


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三山喬(みやまたかし) 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。