最近の小林麻央さんや、北斗晶さんをはじめ、タレントや芸能人の罹患情報が流れると、注目を集める「乳がん」。
女性がかかるがんのうちで最も多く、日本人女性の12人に1人が罹患する病気だ。自分の身の回りでも、親戚や同僚で乳がんにかかった人はいる。にもかかわらず、主に男性読者を抱える媒体で書いてきたため、乳がんという病気にあまり触れてこなかった。そのため、ほんのわずかな知識しか持ち合わせていない。
しかし、『「乳がん専門医」の教え』を読んだことで、病気の全体像から、検診、診断、治療まで最新の知識が得られたと同時に、さまざまな誤解や勘違いも修正された。
日本人の乳がんの罹患率は年々上昇している。栄養状態がよくなったことなどが背景と見られている。死亡率の水準としては、日本は欧米諸国に比べれば、まだまだ低いものの、欧米諸国の死亡率が右肩下がりなのに対して、日本の死亡率は上昇を続けている。
その点について、著者は〈検診受診率が高い国では、早期発見される率が高いために早期に治療が行われ、結果的に死亡に至る乳がん患者が減っている〉と指摘する。
実際、2013年度の乳がん検診受診率は34.2%にとどまる。日本人女性の6割以上が乳がん検診を受けていないのだ。
がん治療では「早期発見」「早期治療」が不可欠だが、「早期診断」なくして死亡率は下がらない(著者は3つを合わせて「三大アーリー」と呼んでいる)。まず、検診受診率の向上は、最重要の課題といっていいだろう。
乳がんの検診を促す「ピンクリボン運動」もずいぶん日本に浸透したと感じていたが、業界にどっぷりつかった人間の思い込みと反省。実際の検診受診率を見る限り、一般への浸透度はまだまだの感がある。
本書では、乳がんのセルフチェック法から、検診、精密検査など、診断に至るまでの全体像が解説されているが、最新の検査として注目したのは、「PEM検査」(乳房専用PET)。著者によれば、日本にはまだ2台しかない検査装置だが、〈より小さながんも発見できる可能性が高まります〉という。また、乳腺が発達した「デンスブレスト」の人、Gカップを超えるような人にも有効だという。
■男も乳がんにかかる
自分がしていたいくつかの誤解のうち、大きなものは再発までの時間だ。一般にがんは手術や治療から5年経てば、治ったと考えられていて、自分もそう信じていた。しかし、乳がんについては、その限りではない。著者によれば、〈手術から5年が経過してから再発する人もいますし、私はこれまでに20年が経過してから再発した患者さんを診たこともあります〉という。このため乳がんでは、「10年生存率」が用いられることもあるという。
ここまで読んできて、「嫁に検診に行くよう言っておこう」と思ってもらえれば、それはそれで十分なのだが、実は乳がんは女性だけの病気ではない。男も乳がんにかかるのだ。統計的には女性の100〜150分の1とはいえ、女性の罹患率を考えるとそれなりの数になる。
もしも胸に気になるしこりがあるなら、男性も乳腺(外)科(ちなみに女性も含めてだが、乳がんの疑いのある人が受診するのは、婦人科ではなない。念のため)を受診したほうがいいだろう。〈男性の小さなおっぱいでも、ちゃんとマンモグラフィを撮れます〉という。
〈なぜアンジェリーナ・ジョリーはおっぱいを取ったのか?〉など、話題のトピックも交えつつ、ド素人の私にもわかりやすい(わかりやすさを重視したためか、「おっぱい」が頻出するのは、少々違和感あり……)、オススメの1冊。(鎌)
<書籍データ>
竹原めぐみ著(中公新書ラクレ800円+税)