注目の週刊文春・ユニクロ潜入記第2弾は、のっけから潜入記者が解雇されるシーンから始まる。先週号の発売後、最初に出勤したその日のことだったという。この記事の執筆者は、かつて最高裁までユニクロと争った横田増生氏。ユニクロ側もそうと知れば、ここ1年余りで採用した準社員の写真をチェックして、法廷で何度も対峙した相手を特定することは、簡単だっただろう。 


 前号記事を書いたのはあなたか? 人事部の担当者は改名した横田氏にそう確認したうえで、解雇通知を手渡したという。「中身云々は別として、当社にとってまったくプラスになるような内容ではない」ということで、社に「重大な損害」を与えた点で就業規則違反になる、とのこと。個別の記述については一切コメントしなかったという。


 今週の記事もしかし、解雇シーンの描写のあと、再び時計の針を巻き戻し、11月の「創業感謝祭」の過酷な舞台裏を描写するルポルタージュが続いてゆく。そして文章は、来週もまた連載第3弾が続くことを予告して終わっている。


 記事を読んだ限りでは、横田氏は自身の解雇を争うつもりはなさそうな様子だ。会社側の態度も淡々としており、いささか拍子抜けするほどだ。もしこれが外部からの“潜入ルポ”でなく、もともとユニクロで働いていた一般従業員による“内部告発ルポ”だったら、どうだったろう。会社側はそう簡単に解雇できるものなのか、などといろいろ疑問が湧く。


 ともあれ、横田氏の手元にはすでに1年余りかけ蓄積した“取材成果”があり、これからも書く材料には事欠かない。会社側は今後、記事内容を毎号、隅々までチェックして法的な対抗策をとるだろうが、もはや相当なダメージは覚悟しているだろう。


 今週、もう1本、気になったのは文春の『ネット“インチキ医療情報”の見破り方』。ネット上に溢れる真偽ないまぜの情報をコピペしてつなぎ合わせていた編集が発覚し、医療情報サイト「WELQ」ほか経営する全投稿情報サイトの閉鎖に追い込まれた大手IT企業「DeNA」の話だ。


 文春記事によれば、WELQの原稿料は2000文字で1000円。400字詰めの原稿用紙に換算すれば、1枚200円である。テレビの関連報道によれば、ウェブライターの世界では、1枚100円ということも珍しくなく、“100円ライター”なる自虐的呼称もあるという。つまり、今回の問題はDeNAだけでなく、ウェブ上でこうした低価格ライターが書く全情報サイトにかかわる問題なのである。


 医療ばかりでなく、政治でも経済でも文化やグルメでも同じだ。こんな低価格で読むに足る記事はできない。定価2万円で新車を売るようなものだ。まともに走ると考えるほうがおかしい。


 紙の雑誌媒体の場合、原稿料単価は数十倍だが、それでもライター個々人は食べていくのがやっと、専業でも年収300万円かつかつという人が大半だろう。さらに必死に頑張れば、倍の本数を書けるかもしれない。でも3倍は無理だ。人と会い、資料を読み、読むに足る文章を練る。どうしても1本の記事を作るには、それなりの時間がかかる。


 100円ライターが食いつないでゆくためには、紙のプロたちの20〜50倍もの本数を“生産する”必要がある。取材・執筆に1ヵ月かかる原稿を1日で書いてしまうのだ。取材も資料読みもできるはずはない。ただひたすら書く。それもコピペを継ぎはぎし、言い回しをいじくるだけ。


 それでもメディアの趨勢として紙媒体は斜陽産業だ。100円ライターたちのサイトにどんどん取って代わられている。消費者がそれを選択するからだ。ウソでもデマでもパクリでも無料の情報がいい。そんな世の中の行き着く先が恐ろしい。


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三山喬(みやまたかし) 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。