「“医療の質の向上”と“国民負担の軽減”の実現に向けて」——。この“サブタイトル”が、今後のすべての医療・介護制度改革の方向性を示している。12月7日に開催された政府の経済財政諮問会議に、塩崎厚労相が示した「薬価制度抜本改革の方向性(案)」には、“一人勝ちを許さないシステム”を構築していく意欲を感じられた。


 薬価改定を年1回にすることに加え、「効能追加が審議・承認された医薬品」と「当初の予想販売額を上回る医薬品」については、NDBも活用し、新薬収載の機会(年4回)に薬価を見直しする考えだ。この制度が実現すれば、薬価が低下するスピードは1.5倍早くなり、製薬企業の利益は2分の1になるかもしれない。医薬品卸は、利益、業務ともに製薬企業以上の“被害”を受けることになるだろう。後発医薬品メーカーはMRの雇用を維持できなくなり、新薬を継続的に上市できない先発医薬品メーカーも、営業部門を縮小せざるを得なくなる。


 これがワーストシナリオだ。ここまで行かなくても、売れすぎた製品へのペナルティは厳しくなりそうだ。


 薬価制度の改革よりも、MR活動に影響を及ぼすのが、医療機関・薬局サイドに関連する制度の改革だ。11月25日に開催された経済財政諮問会議では、有識者議員が提出した資料の中に、「1人当たり医療費・介護費の地域差是正に向けたガバナンスの確立」とあり、「都道府県を中心に関係者間で目標達成の役割分担と履行責任を共有すべき」と指摘されている。


 医師会&糖尿病対策推進会議&県の三者が連携し「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を作成した埼玉県方式や、データヘルス事業に早期に取り組んだ広島県・呉市のような先進的事例を全国に展開してくことで、重症化予防を標準化して医療費を適正化させていくことになる。とくに1人当たりの医療費が高い地域は、改革が求められることになる。


 医療機関や薬局に対する改革は、薬価制度の改革の数倍の影響を製薬企業・医薬品卸にもたらすことになる。“一人勝ちを許さないシステム”に対応するには、“医療の質の向上”と“国民負担の軽減”という“流れに逆らわないこと”が重要である。

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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。