10年後、20年後の流通の姿はどんな風になっているのだろうか。現在は、例えばスーパーなら店に行って、自らが商品を選びレジで精算するという方式が一般的だ。店で買う分には、百貨店だろうが専門店だろうが、ほぼ同じように、消費者が商品をレジまで持っていって清算する。この方式が連綿と続きスーパーの出現によって拍車をかけた。


 しかし、現在は米アマゾン・ドット・コムの日本法人、アマゾンジャパンが23区内なら注文後1時間で配送する体制を整備した。1時間の先はなかなか超えられない一線があるとみられるが、注文後30分で自宅に商品が届くとなると、流通の世界は大きく変わるだろう。


 大胆に近未来の流通を予測してみた。


 現在、米国では「ダークストア」が大流行だ。ダークストアといっても怪しい商品を売っている訳ではない。消費者が入れない店というか、従来のように消費者が入って商品を買うというスタイルではなく、倉庫のような拠点である。


 通常の店舗と同じような品揃えがしてあり、消費者から注文があると、ここで担当者が品を揃え、消費者の到着を待つ。そしてドライブスルー型の受け渡し場で商品を受け渡す。注文、決済はネット上で済ます。消費者にとっては買い物の時間が節約になるし、販売側からすれば、大量の人、時間を投入して売り場を構築することもないし、レジによる清算業務も不要。極めて合理的な仕組みである。


 この推進者が世界最大の小売業である米ウォルマート・ストアーズで、ドライブスルー型のダークストアを全米に500店舗をすでに展開している。配送コストも削減でき、しかも店舗運営のコストも大幅に減らせる。そのコストを減らした分、商品を安売りすることも可能だ。


 このため、新しい流通形態として相当な自信をつけたのだろう。今年末までに600店になる見通しだと発表しており、急ピッチで拠点数を増やしている。


 ウォルマートはこのダークストアにガソリンスタンド併設のコンビニエンスストア型店舗を連動させ、ダークストアが近くにない顧客には、自社の配送便を使い、コンビニ型店舗に商品を横持ちで運び消費者に受け渡す仕組みの実験も始めている。また、アマゾンはコンビニ型店舗「アマゾンゴー」に参入、カメラやセンサー、AI、アルゴリズムを駆使して決済を自動化する。


 自動車社会である米国ならではの仕組みであるといえるが、翻って日本ではどうだろうか。やはり、このラスト・ワン・マイルで効率的な仕組みを構築した流通こそが、これから成長できる可能性がありそうだ。


 日本ではまだまだ、ネットを使いこなして買い物をするという文化がそれほど広がっていない。そのため、コンビニに行ったり、スーパーに行ったりして購入するというスタイルが圧倒的だ。


 また、緊急度の低いものはネット通販などという購買スタイルが一般的とみられている。しかし、アマゾンは現在、注文から1時間で商品を届けるという仕組みを構築した。まだ1時間だから、日常品は近くのコンビニに行ったり、スーパーに行ったりして買い物をしたほうが早い。


 しかし、それが注文後30分以内に商品を届けるというような仕組みができあがったらどうだろうか。店に行って買い物をする商品は極めて限られてくるのではないか。そうなると店の存在理由も変わらざるを得なくなる。


 もちろん、あまり自宅に配送業者が来てほしくないという要望もあれば、億劫でも品定めをして買いたいというニーズもあるから、一概にはそうとはいえない。しかし、例えばコンビニやスーパーでは、今までのように、商品を並べて顧客を待つ態勢から、物流拠点のような機能が軸になっていくのではないかとみられている。


 しかも日本では現在、高齢化が進行しているが、今後の高齢化社会は質が変わっていく。パソコンやスマートフォンが身近にあり、それらに慣れ親しんだ世代が中高年に移行していく。当然ながら、ネットで注文して30分以内に自宅で受け取ったり、実店舗で受け取ったりという購買行動が浸透する可能性が高いのだ。コンビニにアマゾンが開発した自動決済の仕組みを導入して従業員を宅配に振り向けられれば一気に購買の世界が変わる可能性もある。


 いわゆる衣料品や雑貨も買い方が変わる。買い場がネットに移るだけで基本は同じだ。ただ、衣料品の場合、ネットでは詳細が判然としない色や柄、デザインなどがあり、じっくり品定めをして購入したい商品でもある。このため、家電製品同様にアパレルの店舗が「ショールーム」と化すのは間違いない。


 ファーストリテイリングが展開する「ユニクロ」では、最近米国の店舗に「メモリーミラー」というシステムを導入した。ミラーの前に立ち試着した自分の姿を録画したり、脱ぎ着することなく選択した商品の色違いの商品が映し出される装置だ。ここで録画した画像をスマートフォンに送信することもできる。つまり、店舗で購入しなくても、他の商品と見比べてネットで購入させることを狙っている格好だ。


 日本の場合、大手デベロッパー会社が店舗で買わせることを優先、ネットへの誘導を厳に“規制”しているため、モールに出店している衣料専門店などでは、こうした販売手法はとりにくい。だが、早晩そうした“規制”も崩壊して店舗がサンプルだけを並べる試着室、ショールーム化していくのは確かだ。そのほうが断然コストがかからないからだ。


 近未来は現在の流通業の延長線上にないかもしれない。だが、店、セルフスタイル、チェーンストアによる規模拡大、バイイングパワーという概念は崩れ始めていることは確実なのである。(原)