全世界で反グローバル化の動きが広がっている。今年6月に実施されたイギリスの国民投票で欧州連合(EU)の離脱が決まった背景として移民に対する反発が挙げられており、11月のアメリカ大統領選挙でも移民の国外追放などを唱えるドナルド・トランプ氏が勝利した。 


 一方、日本でも外国人労働者が増えつつあり、都内のコンビニエンスストアで外国人労働者を見ない日はない。人口減少が始まる中、外国人労働者は今後も増えることになりそうだ。今回は国内経済のグローバル化と外国人労働者問題について考えてみる。 


◇外国人嫌いが代表的な言葉に


 今年の単語は「外国人嫌い」を意味するxenophobia—。辞書サイトのDictionary.comがこんな発表を行ったという。 


 単語の検索は英国の国民投票を受けて急増。米オバマ大統領が同月、トランプ氏の選挙運動を批判した際、この言葉を演説で用いたことも重なり、今年の単語として選ばれたようだ。 


 さらに、来年のフランス大統領選挙で反移民を掲げる候補が既成政党に対抗しようとしており、2015年製作(日本公開は2016年)のドイツ映画『帰ってきたヒトラー』では現代にタイムスリップしたヒトラーが移民、外国人の排斥を演説で訴え、国民から熱狂的な支持を得る場面がある。いずれの国も「雇用を外国人や移民に奪われている」という不満が外国人嫌いや反移民の雰囲気を助長させている形だ。


図:外国人労働者の推移

出所:厚生労働省「外国人労働者の届出状況」より作成

注:各年のデータは10月現在。 


 では、日本の現状はどうか。同質性の強い日本では大陸から隔絶した地理的条件に加えて、外国人に対するアレルギーが強く、移民や難民、外国人労働者の受け入れに消極的だったが、近年は図の通りに外国人労働者が増えており、2015年10月現在では90万7,896人。年内にも100万人を突破する気配だ。国籍別の内訳は上位から中国35.5%、ベトナム12.1%、フィリピン11.7%、ブラジル10.6%となっており、2015年10月現在の調査に限ると、前回に比べるとベトナム、ネパールの出身者が増えている。 


 在留資格で見ると、日系人や日本人の配偶者など永住者が40.4%、留学生のアルバイトなど「資格外活動」が21.2%、発展途上国からの技能実習生が18.5%、大学教授など「専門的・技術的分野」の就労目的で在留が認められる人が18.4%、EPA(経済連携協定)に基づく外国人看護師やワーキングホリデーなどの「特定活動」が1.4%となっている。 


 このうち、資格外活動とは「本来の在留資格に影響しない範囲」で留学生などに認められるアルバイトなどを指しており、1週間28時間以内などの条件が定められている。直近5年間を見ると、全体が1.3倍、その他の類型が1.3〜1.4倍であるのに対し、資格外活動の人数は1.7倍増えている。 


◇人口減少のインパクト


 一方、日本の総人口は減少局面に入っている。10年後には1億2,000万人を下回り、約30年後には1億人を割る見通しだ。特に15〜64歳の生産年齢人口については、1995年の8,726万人を境に減っており、約10年後には7,000万人スレスレに減少、30年後には5,353万人に減る見通しだ。この状況では恒常的な人手不足になる可能性が高く、介護など一部の業種では一層、人材確保が深刻になることが予想される。 


 これに対し、政府は経済成長に向けた方策を定めた「日本再興戦略2016」で、「高度な外国人材を受け入れ、長期にわたり我が国の経済成長に貢献してもらう」とし、専門的な能力を持つ外国人の永住許可申請に関する在留期間を現行の5年から大幅に短縮する「日本版高度外国人材グリーンカード」の創設などを掲げ、専門人材の受け入れを重視している。 


 ただ、実際には留学生のアルバイトなどを名目とした資格外の外国人労働者が増えている。現在のペースが続くかどうか不透明な面もあるが、先述した人口減少を踏まえると、安価な労働力として外国人を雇用しようとする流れは今後も止まらないのではないか。 


 それにもかかわらず、政府や国会の議論を見ると、危機感が感じられない。外国人労働者の受け入れを議論した機会として、2008年に自民党の議員連盟が50年間で1,000万人の移民を受け入れる提言を公表し、その手立てとして外国人政策を一元化する「移民庁」の設置、永住許可要件の大幅な緩和などを掲げたが、現在は表立った議論が見られない。 


 自治体レベルでも依然として、外国人が多く住む首都圏や企業城下町など一部の地域で起きている事象と捉えられているようだ。確かにゴミ捨てや生活騒音などの摩擦やトラブルが起きており、総務省は2006年に「地域における多文化共生推進プラン」を策定したが、同様のプランを独自に策定している自治体はわずか5%に過ぎない。 


 ただ、今後の人口動態や雇用環境を見ると、一部の地域で起きている摩擦やトラブルは決して珍しい出来事ではなくなるだろう。xenophobia(外国人嫌い)な体質が今も根強く、外国人労働者の大規模な受け入れは難しいかもしれないが、今後の人口動態や雇用環境を踏まえつつ、その利害得失を現時点から議論し始めることが重要と思われる。 


・・・・・・・・・・・・・・・・・

丘山 源(おかやま げん)

大手メディアで政策形成プロセスを長く取材。現在は研究職として、政策立案と制度運用の現場をウオッチしている。