ファーウェイ(華為技術)に対する米トランプ政権の攻勢に対し、ファーウェイと中国政府も猛反発している。最初は米国の要請で猛晩舟副会長を逮捕したカナダに対し、中国は2人のカナダ人を逮捕し、そして輸入したカナダ産菜種から「害虫が出た」という、いつもの中国らしい言い分で輸入を停止するなど嫌がらせを続けた。次いで内外の記者を集めて創業者の郭平・輪番会長が記者会見を行い、「ファーウェイは民間企業。中国政府から情報提供を要求されても決して提供はしない。アメリカの圧力はファーウェイの先進的な5G技術がアメリカを追い抜くのを恐れたからだ」と説得した。記者会見に応じてもらった各紙、各テレビ局は有り難かったのか、民間企業のファーウェイはたとえ中国政府からデータを要求されても(中国政府に)従わないと言っていると、好意的な報道ぶりだった。
だが、その言葉を信じられるだろうか。ニュース解説番組などでは中国を「共産主義国家」「習近平の独裁が強まっている」などと表現するが、中国は共産主義国家ではない。共産主義のシステムを利用した古代的支配構造の帝国である。かつての文化大革命のときにハッキリしているが、共産主義だったら紅衛兵騒動や流行語にもなった「造反有理」などということはあり得ない。共産主義だったら中学生や高校生が共産党や党員を「造反有理だ」と批判することなど起こり得ない。
また、中国では軍(人民解放軍)がしばしば政治に口を出す。中国では歴代の共産党のトップである党総書記(名称は国によって書記長だったり、第一書記だったりする)が決まったとき、軍を掌握できるかということがいつも言われている。が、共産主義だったら、軍は政治を考える必要はないし、嘴を入れることなどもってのほかだ。軍には政治主任が派遣され、常に政治思想と行動を指示される。旧ソ連が崩壊したとき、軍は一部のはね上がりが動いただけで、軍そのものはほとんど動かなかったが、これは党中央が混乱し、指示を出すことができなくなり、政治主任が逃げ出してしまった結果、ふだん政治を考える必要がない軍幹部はどうしていいかわからず、傍観していたというのが実情だ。軍がクーデターに動くかどうか、というのは資本主義国家の発想である。
ところが、中国では常に軍の動向が注視される。軍が政治的発言をする。中国共産党のトップである総書記に就任後、軍事委員会の主任に就任することが必要になる、などというのは本来の共産主義では考えられないのだ。
さらに共産主義は民族自決を認めている。チベットに侵攻し中国に組み込むことや新疆ウイグル地区を支配下に置くことなど共産主義に反している。単に「皇帝」が毛沢東から2期10年ごとに禅譲され、現在は習近平になっているというだけに過ぎない。中国は「人民の名において党が独裁する」という共産主義のシステムを利用して独裁を実行しているのである。
ともかく、郭代表が言うとおり、ファーウェイは政府から「情報を提供せよ」と言ってきても拒否できるだろう。なぜなら、資本主義国家と違い、中国では党政治局が政府を動かすのである。一方、党書記局は党人事、国家戦略、党員の規律などを掌握する。郭代表は党に忠実な党員であり、軍出身である。表向き政府、つまり党政治局の指示に従わないことはできる。だが、政府の上にあるのが党中央委員会である。党書記局がファーウェイに「情報を提供せよ」と言えばいいのだ。党に忠実な郭代表は政府の要求を拒否しても党中央の指示には従う。中国のシステムを知らない資本主義国家の記者は簡単に「郭代表は政府が情報提供しても断る」という発言に騙されてしまう。
「広大な国土で、多民族の中国をまとめていくには独裁体制でなければ支配できない」とも言われるが、現在の中国は漢や唐、明と同様で、唯一共産主義のシステムを利用した独裁帝国である。郭代表の言葉は一面では真実であり、はたから見れば、信用できないものだ。(常)